生物学・科学に関する雑感。

書籍の紹介が中心です


2012年05月02日

銃・病原菌・鉄

文庫 銃・病原菌・鉄 (上) 1万3000年にわたる人類史の謎 (草思社文庫) [文庫] / ジャレド・ダイアモンド (著); 倉骨彰 (翻訳); 草思社 (刊)

これも大変有名な読み物ですが、最近文庫版を入手してやっと読みました。かなり面白いです。

ヨーロッパとニューギニアでこれほど文明の発達スピードが異なっていたのはなぜか?という問いに始まり、世界各地の文明の相違を、その地域の地理的条件、動植物相の違いなどによって説明しようと試みた大作です。地球上で主要作物、主要な家畜になりうるものは数えるほどしか無く、偶然にそれらを利用できた土地、例えば肥沃三日月地帯(メソポタミアを中心とする地域)は小麦、エンドウ、オリーブ、羊、山羊、中国は米、アワ、コーリャン、豚、蚕を持ち、さらにユーラシア大陸は東西に長いので、作物や家畜が伝播しやすかったため、ユーラシアの諸文明が早くに発達したということです。

私はアメリカに住んでから、七面鳥、カボチャ類(ズッキーニ、スクワッシュ)、キヌアなど、新大陸の食べ物が結構好きなので、それらの歴史も楽しめました。

新しい版では日本に関する章が追加されているらしく、その章の全訳は以下で読めます。

ダイアモンド『銃、病原菌、鉄』2005年版追加章について 山形浩生
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2012年04月02日

脳のなかの幽霊

脳のなかの幽霊 (角川文庫) [文庫] / V・S・ラマチャンドラン, サンドラ・ブレイクスリー (著); 山下 篤子 (翻訳); 角川書店(角川グループパブリッシング) (刊)

とても有名な本で、ずっと気になっていたものですが、やっと読みました。事故などによって手足を切断された患者などにみられる「幻肢」という症状をはじめとする様々な症例と、それに基づいて発想された脳機能に関する考察を中心に構成されています。
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2012年04月01日

Evolution of shape by multiple regulatory changes to a growth gene.

Evolution of shape by multiple regulatory changes to a growth gene.
Loehlin DW, Werren JH.
Science. 2012 Feb 24;335(6071):943-7.

Nasonia(ヤドリコバチ)のオスの翅の大きさは近縁種の間でかなり異なっています。正攻法のQTLマッピングとイントログレッションにより、その違いを引き起こしている遺伝子とその制御領域まで特定したという仕事。注目したのがオスの形質で、オスは一倍体なので解析が単純であること、質の良いゲノム配列があること、種間交配がしやすいこと(もともとの生殖隔離がWolbachiaによるものなので、抗生物質処理一発で隔離が解消できる)など、有利な点が多くありますが、それにしてもとにかくマッピングの解像度がすごい。種間の形態形質で、ここまでの解像度の研究は今までなかったのではないかと思います。ちなみにこの仕事は筆頭著者のD論の一部で、彼はポスドクとしてうちの研究室に来ました。
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2012年02月22日

火星の人類学者

火星の人類学者―脳神経科医と7人の奇妙な患者 (ハヤカワ文庫NF) [文庫] / オリヴァー サックス (著); Oliver Sacks (原著); 吉田 利子 (翻訳); 早川書房 (刊)

様々な脳の障害をもつ患者との交流を通して、脳の機能と、人間性の構成要素を考察しています。日本のテレビ番組にも出ていた、見た風景を一瞬で記憶して、後で克明な絵に描くことが出来る自閉症の男性の話など。大変面白く、オリバー・サックスの他の著作も読んでみたいと思いました。
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2012年02月03日

A toolkit for high-throughput, cross-species gene engineering in Drosophila.

A toolkit for high-throughput, cross-species gene engineering in Drosophila.
Ejsmont RK, Sarov M, Winkler S, Lipinski KA, Tomancak P.
Nat Methods. 2009 Jun;6(6):435-7.

Fosmidからハエに遺伝子を移す方法を勉強中。BACよりも扱えるサイズが小さいけれど、どのみち100kbくらいの大きいインサートはハエに入れる時の効率がとても低いそうなので、現実的にはFosmidで30kbくらいを扱うのが便利なのかもしれないと思います。
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2012年01月28日

はじめに線虫ありき―そして、ゲノム研究が始まった

はじめに線虫ありき―そして、ゲノム研究が始まった [単行本] / アンドリュー ブラウン (著); Andrew Brown (原著); 長野 敬, 野村 尚子 (翻訳); 青土社 (刊)

C. elegansの研究の初期から、その人材がヒトゲノム計画に関わって行くまでの出来事を追った読み物。たいへん勉強になりました。やはり大きな志を持って研究をしないといけないなと思う反面、線虫の研究のように全く新しい分野が興るというのは現代ではあり得るのかと考えてしまいます。これから先、何か巨大な潮流が待っているとしたら、やはりゲノム科学の先にあるのでしょうか。
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2012年01月23日

宮崎哲弥 仏教教理問答

宮崎哲弥 仏教教理問答 [単行本(ソフトカバー)] / 宮崎哲弥 (著); サンガ (刊)

評論家/コメンテーターとして著名な宮崎哲弥氏ですが、彼がいろいろな所で言っているのは、彼の本当の関心事は政治経済問題などではなく、宗教やサブカルチャーであるということです。中でも「専門」は仏教であり、そんな彼の初めての仏教書がついに出ました。

若手の僧侶5人との連続対談ですが、やはり宮崎氏の立ち位置はインド仏教哲学の中観派で変わりなく、大乗仏教の論客たちとの対話も、それなりの一致点は見いだしつつも、やはり納得しきっていない様子が随所に見られます。確かに、極楽浄土が実在する、などと言われるとちょっと私も引いてしまいます。氏の関心事は、数多くある宗派の教義のどこに矛盾があるか、そして、どんどん付け加わって来た新しい教義、解釈の、どれをどうはぎ取って、本当に取り上げるべき考え方(哲学)は何かを示すことにあるように感じます。今後の著作にも多いに期待します。
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2012年01月16日

偶然と必然

偶然と必然―現代生物学の思想的な問いかけ [単行本] / ジャック・モノー (著); 渡辺 格, 村上 光彦 (翻訳); みすず書房 (刊)

本年もよろしくお願い致します。

さて、これはラクトースオペロンで有名なモノーのエッセイですが、生物と人工物の違いから説き始め、自分の研究分野を人類の思想史の中に位置づけていく、非常に壮大かつストイックなものです。その思考の鋭さに、少々息苦しさすら覚えます。

私の現在のボスはエボデボの研究者なのに、好きな論文にラストースオペロンの論文を挙げるほどで、それまで私は退屈な教科書的な研究と思っていたので、大きく考えを改めさせられたものです。確かに彼らの研究は洗練されていて美しく、その結果の投げかけたものは大きいのですが、その背景には、当時の生物学が示すべき科学的事実は何か、という確固とした思想的背景があったことに驚かされます。

古い本ですが、非常に切り口はユニークだし、研究のありかたについての示唆に富んでいて、特に若い研究者にぜひ読んでもらいたいです。
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2011年11月18日

ダーウィンの危険な思想

ダーウィンの危険な思想―生命の意味と進化 [単行本] / ダニエル・C. デネット (著); Daniel C. Dennett (原著); 山口 泰司, 大崎 博, 斎藤 孝, 石川 幹人, 久保田 俊彦 (翻訳); 青土社 (刊)

デネットの進化哲学本。生物学の研究者にとっては、おそらく彼の著作の中で最も重要なものではないでしょうか。

ダーウィンの進化論が人類の思想に与えた影響を分析し、様々な話題、進化生物学上の問題に絡めて提示しています。例えば「種」と系統樹の関係であるとか、適応主義に関する論考など。とにかく大冊ですし、読んでいると色々な考えが浮かんでは消え、なかなか読み進まなかったですが、自分の研究テーマを考える上でも重要なヒントが隠されている気がする本でした(気がするだけかもしれない)。時間のある方はぜひ。

本書から小ネタをひとつ。インプットとしてスクランブルエッグを入れて、アウトプットとして生卵を取り出す装置はどのように作ればいいでしょうか?
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2011年11月17日

High-resolution melting curve analysis for rapid detection of mutations in a Medaka TILLING library.

High-resolution melting curve analysis for rapid detection of mutations in a Medaka TILLING library.
Ishikawa T, Kamei Y, Otozai S, Kim J, Sato A, Kuwahara Y, Tanaka M, Deguchi T, Inohara H, Tsujimura T, Todo T.
BMC Mol Biol. 2010 Sep 15;11:70.

メダカのTILLINGに、融解曲線解析によるスクリーニングを組み合わせたもの。この方法により、スクリーニング自体は非常に簡便かつ高速になっていると思います。分子生物学の部分に関しては、ちょっとこれ以上の高速化は思いつかないくらいです。

Non-modelのハエは、状況がメダカに似ていると思うので(純系は作れる、バランサーはなし、世代時間は数十日、ゲノム配列はある、トランスポゾンは入る)、この方法を使えないかと思っています。違いは、ハエは系統を凍結保存できないので、変異が入った染色体が失われないように維持するのが難しい点でしょうか。
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2011年11月16日

Target-selected mutant screen by TILLING in Drosophila.

Target-selected mutant screen by TILLING in Drosophila.
Winkler S, Schwabedissen A, Backasch D, Bökel C, Seidel C, Bönisch S, Fürthauer M, Kuhrs A, Cobreros L, Brand M, González-Gaitán M.
Genome Res. 2005 May;15(5):718-23.

TILLINGをショウジョウバエに応用した例のひとつ。

彼らは、Cel-Iという、DNAのヘテロ2本鎖を切断する酵素(セロリに由来するらしい)を使い、ヘテロ接合を検出しています。ハエの場合は、種子や精子を凍結保存したりはできないので、変異を入れたライブラリーをいかに保持するかがポイントですが、彼らはバランサー染色体と、熱ショックでアポトーシスを誘導できるhs-hidを使って、比較的簡便に系統を維持する方法を用いています。しかしバランサーを使うと、多くのSNPsを持ち込むことにもなり、それをどのように突然変異と見分けるかが重要になります。Cel-Iを用いた方法なら、ゲル上で突然変異を含むすべてのSNPsを可視化できます。とはいえ、今の時代だったら、すべてキャピラリーシークエンスしたほうが簡便ですかね。

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2011年11月15日

Targeted screening for induced mutations.

Targeted screening for induced mutations.
McCallum CM, Comai L, Greene EA, Henikoff S.
Nat Biotechnol. 2000 Apr;18(4):455-7.

化学物質などでランダムに起こした突然変異を、特定のゲノム領域のみに限定してスクリーニングすることで、逆遺伝学に近い効果を得る方法。TILLING (Targeting Induced Local Lesions IN Genomes)と呼ぶそうです。この論文が原法で、DHPLCを使ってヘテロ接合を検出していますが、その後、さらに様々なスクリーニング法が開発され、多くの栽培植物やモデル生物に応用されています。明日以降に続きます。
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2011年11月12日

TPPはまったく話題になっていない

アメリカでは、少なくともここマディソンでは、TPPは全く話題になっていませんし、こちらのニュースサイト、テレビなどでも全く聞いたことがありません。もちろん専門家や国際情勢にとても詳しい人は知っているのでしょうが、それでも数多くある政治課題のひとつに過ぎないと思います。日本での報道の多さと比べると対照的だと思います。

アメリカにとってTPPはどういう意義を持っているのか、に関しては、大前研一氏の指摘が納得のいくものです。
http://www.nikkeibp.co.jp/article/column/20111107/289750/?ST=business

また経済の視点から見たTPPの利点、または反対派の根拠の無さについては、池田信夫氏のコラムが有名だと思います。
http://ikedanobuo.livedoor.biz/

自由貿易の問題は、グローバリズムをどう考えるかという問題でもあります。TPPがどうなろうとも、世界中で同一労働同一賃金に向かって行く流れは止められませんし、それを制限することにどのような理論的、道義的根拠を与えることができるのか私にはわかりません。
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2011年11月06日

Madの名前の由来

そういえば、Mad (Mothers against dpp)の名前の由来について、長いこと疑問に思っていました。なぜmotherではなくて mothers、ofでなくagainstなのかと。

先日、何気なく同僚に訊いたところ、あっさり教えてもらうことができました。Mothers against drunk drivingという社会運動をもじっているのだとか。それで裏をとろうと調べてみると、確かに「Imaginal Discs」にも同様の記述がありました。

Imaginal Discs: The Genetic and Cellular Logic of Pattern Formation (Developmental and Cell Biology Series) [ハードカバー] / Lewis I. Held Jr (著); Cambridge University Press (刊)
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2011年11月05日

Phosphorylation of Mad Controls Competition Between Wingless and BMP Signaling.

Phosphorylation of Mad Controls Competition Between Wingless and BMP Signaling.
Eivers E, Demagny H, Choi RH, De Robertis EM.
Sci Signal. 2011 Oct 11;4(194). pii: ra68. doi: 10.1126/scisignal.2002034.

Scienceの数少ない姉妹紙であるScience Signalingに掲載された論文。UWでは購読していないので直接は読めないのですが、図書館に複写依頼をしたらその日のうちにpdfがもらえました。紙媒体の雑誌であっても、複写以来をすると電子複写でpdfを送ってくれるのでかなり高速です。このシステムはすばらしい。

この論文は、BMPシグナリングの転写因子であるMad (Mothers against dpp)が、実はWntシグナリングにも関与しているという話です。Madがリン酸化されるとBMP、リン酸化されないとWntの方で働くということで、BMPとWntが拮抗的に働くことが説明できるというものです。これ自体は、けっこう衝撃的なモデルです。

しかし著者らも認めているように、Madの過剰発現はWntシグナリングの機能喪失に似た表現型を示すというデータ(以下の論文)と矛盾するし、何かまだ見落とされている因子があるような気がします。続報に大いに期待しています。

Inhibition of Drosophila Wg signaling involves competition between Mad and Armadillo/beta-catenin for dTcf binding.
Zeng YA, Rahnama M, Wang S, Lee W, Verheyen EM.
PLoS One. 2008;3(12):e3893. Epub 2008 Dec 9.
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2011年10月17日

自由は進化する

自由は進化する [単行本] / ダニエル・C・デネット (著); 山形 浩生 (翻訳); NTT出版 (刊)

ずっと前に読み始めたものの、これを理解するためには「解明される意識」を読んでおかねばならないと思い、その後に再挑戦してやっと読了。本書は、はたして人間に自由意志はあるのか?という問題に、ユニークな解答を提示しています。

われわれ理系の人間の多くは、人間も動物の一種であり、大腸菌、線虫、ショウジョウバエなどとおおむね同じ動作原理で動いている、と考えていると思います。そして生物の体は完全に物理学的に説明可能な物質のふるまいのみによって動いていて、意識の働きも同様である、と考えるのが自然です(つまり物質に基づかない霊魂のようなものは無い)。これは古くからある機械論と非常に近い立場だと思います。そうすると、我々の脳の活動も他の物体の振る舞いと全く同じで、宇宙の初期状態が与えられれば後は必然的に展開するシナリオ通りに動いているだけということになります。

一方で、われわれは自分に自由意志があることを前提にしてものを考えているような気がします。それが、機械論とは矛盾するように思えるにも関わらず、です。

デネットは、それは矛盾ではなくて、機械論的な世界観と自由意志は両立できると主張しているようです。そのためには、人間の意識というのは進化を経て作られてきた行動シミュレーションツールであるという視点が不可欠で、「解明される意識」や「ダーウィンの危険な思想」で述べられている内容を下敷きにしつつ、本書でさらに自由意志に関する議論に焦点を絞って論じています。予想される反論や、この手の話題にはつきものの量子力学との関係なども、丁寧に論じています。この手の話題が好きな人には、ぜひお勧めしたい本です。

ところで、山形浩生のべらんめぇ口調の独特な訳文は、私にはくだけすぎているように感じられました。
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2011年10月15日

The treehopper's helmet is not homologous with wings (Hemiptera: Membracidae)

The treehopper's helmet is not homologous with wings (Hemiptera: Membracidae)
KAZUNORI YOSHIZAWA
Systematic Entomology
Article first published online: 14 OCT 2011
DOI: 10.1111/j.1365-3113.2011.00606.x

例のツノゼミ論文に対する反論が正式に出ました。元論文には多くの形態学的な解釈ミスがあり、彼らの主張する結論(ツノゼミのヘルメットは翅と相同)は、全く支持されない、という内容です。

私は元論文と今回の反論の両方に多少関わっており、微妙な立場ではありますが、自分の科学的な良心に従って、完全にこちらの反論を支持しています。そもそも昨年の夏、元論文の筆頭著者がマディソンを訪れた際に、このプロジェクトの概要を聞き、データの解釈に関する私の懸念は伝えました。

その時の違和感は主に2つありました。ひとつめは、ヘルメットには関節があり、それによって付属肢の定義を満たす、という彼らの見立てが、ヘルメットと翅の相同性を示す証拠のひとつとして挙げられていたことです。付属肢の定義は、既存の付属肢をひとつのカテゴリーにまとめて名付けるためにあり、その由来の同一性を担保するものではありません。付属肢に由来する器官が二次的に関節を失うこともあり得るでしょうし、付属肢の定義に合致する複数の器官が、独立に生じることもあり得るはずです。さらに、そもそもヘルメットの関節と彼らが主張する構造自体が、今回の反論論文により、単に前胸と中胸のあいだの部分である(つまりヘルメットと前胸の間に関節はない)ことが示されています。

もう一つは、ツノゼミの終齢若虫の前胸の側後方には、翅芽と明らかに連続相同に見える張り出しが見られ、一方で、ヘルメットは前胸の中央付近で既に後方に張り出していることです。つまり、翅とヘルメットとでは、形成されている場所が違うのです。彼らは、切片標本に基づいて、ヘルメットの前駆組織は翅と同じ位置で形成され始め、次第に中央に伸びて融合するかのような図を示していますが、これは切片を斜めに切ったからそういう形に見えていることを、今回の反論は示しています。

このように、そもそも形態の解釈に大きな疑問があるので、元論文の後半の、Drosophilaを使った実験は無意味です。実験の前提となる問題提起(翅と相同なヘルメットが前胸に形成されるにあたり、Hoxによる翅形成の抑制メカニズムは保存されているか)がそもそも意味をなさないからです。Natureをはじめとする有名ジャーナルは、EvoDevoの論文に対しても、結論を支持する実験、特に遺伝子の機能解析を要求することが多くなっていますが、それをうまく逆手に取って、あたかも結論を支持する実験を行ったかのように仕上げています。良く読むと、これらの実験の組み立てを含め、論理の運び方がぶっとんでいて、彼らのデータ群は、ひとつの結論を支持するものでないことは明らかだと思います。

今回の反論の著者、吉澤さんのブログもご覧下さい。
http://hexapoda.sblo.jp/
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2011年09月25日

旭川

しばらく日本に来ています。旭川、札幌から、つくば、三島と巡る予定です。

動物学会(旭川)での関連集会は好評でひと安心。オーガナイザーの方たちに感謝です。札幌のボスは奨励賞受賞、おめでとうございます。教育賞を受賞したムツゴロウさんに握手を求めたら、思いのほか会話が盛り上がってしまい、カメラが寄って来て「とくダネ!」に出てしまうという意外なハプニングもありました。
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2011年07月11日

なぜ新ジャーナルはCellやNatureを超えられないか

このあいだ、来年創刊される新ジャーナルについて、私は応援したいけれども、そのステータスはCellやNatureを超えないだろうと書きました。そう考える理由を書きたいと思います。

1. 投稿する側の心理
もしもあなたがCellもしくはNatureに載るくらいのデータを持っていたらどうするか?将来的にどんなステータスになるかわからない新ジャーナルに投稿するでしょうか?履歴書にCellやNatureがあれば、それがベストでしょう。仮に新ジャーナルがCellやNatureと同程度のステータスになったとしたって、同格ならば問題ないです。一番最初から新ジャーナルに投稿する人がいるとしたら、新ジャーナルのほうが将来は高いステータスになると踏んでいる人か、CellやNatureを恨んでいるPIなどが考えられますが、そう多くはないでしょう。創刊直前には、有名PIのもとに「ぜひ投稿してほしい」という案内が行くでしょうが、筆頭著者などの若者の将来がかかっていますから、いくら新ジャーナルを応援したいとしても、はじめから新ジャーナルに、という決断はしにくいでしょう。自分が筆頭で、すでに一流ジャーナルに沢山論文がある人は、バラエティーをだすために新ジャーナルに、ということも考えられますが、これも多くはないでしょう。

2. では、どんな原稿が集まるか
なかなかいいけれども、CellもしくはNatureに載せるのは難しそうな原稿、もしくはリジェクトされた原稿が集まるでしょう。そうすると、Cell姉妹紙、Nature姉妹紙くらいのレベルの原稿が集まるのではないでしょうか。まさにこういうことが起こったのがPLoS Biologyの創刊のときだったと思います。今回も同じことが起こるでしょう。

3. 最初から、トップをとるにはどうしたらいいか
この新ジャーナルがトップを採るためには、入念に作戦を練るべきです。前記のように、たぶん普通に原稿を集めてはだめです。有名PIに、ご祝儀で先端的なレビューを書いてもらい、レビューをたくさん載せる。オリジナル論文は、極端に数を抑制し、ずばぬけたものだけを載せることです。また、メソッドやプログラムに関する論文も、特に厳選して載せるといいでしょう(まれに数千回引用されるお化け論文になる可能性があるため)。これを2年ほど続けると、研究者のコミュニティーのなかで、非常に優れた論文しか載らない雑誌として認知され、また高いIFが付くでしょうから、これでやっと一流紙と互角のスタートが切れるでしょう。

4. 他にも、レベルを下げる要因が
新ジャーナルを立ち上げる大義として、現在の一流紙は査読者による書き直しや追加実験の要求がきつすぎることが挙げられています。裏を返せば、新ジャーナルではこのような要求が弱まるということで、著者にとっては楽になるものの、論文の質の低下につながるでしょう。大義を守りつつ、トップをとるのはとても難しいミッションになるでしょう。
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2011年07月09日

Multiplexed shotgun genotyping for rapid and efficient genetic mapping.

Multiplexed shotgun genotyping for rapid and efficient genetic mapping.
Andolfatto P, Davison D, Erezyilmaz D, Hu TT, Mast J, Sunayama-Morita T, Stern DL.
Genome Res. 2011 Apr;21(4):610-7. Epub 2011 Jan 13.

同じグループからもう一本。読んでみると、確かに技術的に十分に可能で、そういう意味では驚きはないのですが、とにかくものすごい利点の多い次世代シーケンサーを使ったマッピングの方法です。これを使えばQTLマッピングがものすごい高速でできるうえ、手間も少ないし、レゾルーションが低ければサンプルを増やすのも簡単そうです。

こうなってくると、自分の扱っている種でもやりたいですが、近縁種のどれとも今のところ交配できないので、そこをとにかく乗り越えないと。
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