生物学・科学に関する雑感。

書籍の紹介が中心です


2006年01月26日

BlattellaのRXR/USPについて

昆虫の脱皮ホルモンである20Eの受容体は、EcRとUSPという2種類のタンパク質のヘテロダイマーであることが知られています。20Eが結合するのはEcRのほうであり、USPにはリガンドがあるのかはっきりしていません。

昆虫において、もうひとつ極めて重要なホルモンである幼若ホルモン(JH)の受容体はいまだに取られておらず、USPこそが受容体ではないかと言われたこともありますが、これには反論も多く現在ではそう考えている研究者は多くないようです。

いずれにしろUSPは昆虫の発生の制御に必須な因子ですが、これらの知識は完全変態昆虫(ほとんどがショウジョウバエ)から得られたものです。

では不完全変態昆虫ではどうなのか?これまでトノサマバッタLocusta migratoriaのUSPのホモログであるLmRXRについて報告がある他は、不完全変態昆虫に関してはあまり調べられていなかったようです。

さて今回はチャバネゴキブリBlattella germanicaのUSPホモログであるBgRXRに関するメモ。(このMartinらの論文の存在は恥ずかしながらG-hopさんのエントリで知りました。)

RNAi studies reveal a conserved role for RXR in molting in the cockroach Blattella germanica
David Marti´n, Oscar Maestro, Josefa Cruz, Daniel Mane´-Padro´s and Xavier Belle´s
J Insect Physiol. 2006 Jan 18; [Epub ahead of print]

チャバネゴキブリの終齢幼虫(若虫)に対し、RNAiでBgRXRをつぶしたところ、成虫に脱皮できないか、脱皮しても翅などに形成不全が見られました。この結果は、脱皮の際のRXR/USPの機能が、不完全変態と完全変態昆虫とで保存されている可能性を示すものです。わりと予想通りの結果ではありますが、不完全変態昆虫のRXR/USPの構造がショウジョウバエとやや異なることや、トノサマバッタのRXRはJHと結合しないことと考え合わせると、地味ながらも今後の研究にとって重要なポイントになってくるのではないでしょうか。

また、チャバネゴキブリの幼虫にRNAiが効くことは、シロアリ研究者の自分にとっては重要な情報でした。(シロアリとゴキブリは近縁であるため、シロアリにも効く可能性が高いということです。)

なお、BgRXRの配列と基本的な発現パターンについては以下の論文で既に報告されていました。

Differential expression of two RXR/ultraspiracle isoforms during the life cycle of the hemimetabolous insect Blattella germanica (Dictyoptera, Blattellidae).
Maestro O, Cruz J, Pascual N, Martin D, Belles X.
Mol Cell Endocrinol. 2005 Jun 30;238(1-2):27-37.

二つのisoformがあり、組織や発生ステージによってisoformの使い分けが見られるようです。
また、チャバネゴキブリ胚由来の培養細胞に20EもしくはJHを投与しても、BgRXRの発現に変化は見られません。胚以外のステージでどうかはわかりませんが、少なくとも胚ではBgRXRがホルモンに直接制御されていないということです。(タバコスズメガ、ネッタイシマカのUSPは20Eに、セイヨウミツバチのUSPはJHに制御されているという例が知られているそうです。)

USPに関する論文は最近特に増えてきている気がします。しかし、EcRのパートナーとして20Eの受容を調節し、また何らかの形でJHの受容にも関わっているのは確かなのですが、どうも分からないことが多いです。早く本物のJHレセプターが報告されないかなー。
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2006年01月18日

DNA barcodeって…。

DNA barcodesというものが徐々に有名になってきました。
この手法が提唱されたのは以下の論文です。

Biological identifications through DNA barcodes.
Hebert PD, Cywinska A, Ball SL, deWaard JR.
Proc Biol Sci. 2003 Feb 7;270(1512):313-21.

ミトコンドリアのCOI遺伝子のシークエンスを使えば、ほぼすべての動物が種レベルで識別でき、だいたいどの分類群に属するかわかる、というものです。普通に誰かが考えそうなことですね。バクテリアなどではrRNA遺伝子などを使って既に行われていたことです。でもこれをDNAバーコードと名付け、普及活動をすることによってだんだん大物に化けていったようです。

いまやCONSORTIUM FOR THE BARCODE OF LIFEという組織もできて、とにかくすべての動物のCOI配列を読みまくっているようです。

DNAバーコードは、鳥類の同定にも使えます。
Identification of Birds through DNA Barcodes.
Hebert PD, Stoeckle MY, Zemlak TS, Francis CM.
PLoS Biol. 2004 Oct;2(10):e312. Epub 2004 Sep 28.

遺伝子領域を変えれば、植物でも大丈夫です。
Use of DNA barcodes to identify flowering plants.
Kress WJ, Wurdack KJ, Zimmer EA, Weigt LA, Janzen DH.
Proc Natl Acad Sci U S A. 2005 Jun 7;102(23):8369-74. Epub 2005 May 31.

コスタリカの蝶も、ほぼ完璧に同定できます。
DNA barcodes distinguish species of tropical Lepidoptera
Mehrdad Hajibabaei *, Daniel H. Janzen , John M. Burns , Winnie Hallwachs , and Paul D. N. Hebert *
Published online before print January 17, 2006
Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 10.1073/pnas.0510466103 OPEN ACCESS ARTICLE

隠蔽種も見つかります。なんとこのケースでは1種とされてきた蝶が10種を含んでいたそうです。あらためて生態や幼虫形態を調べると、確かに違うのだそうです。
Ten species in one: DNA barcoding reveals cryptic species in the neotropical skipper butterfly Astraptes fulgerator.
Hebert PD, Penton EH, Burns JM, Janzen DH, Hallwachs W.
Proc Natl Acad Sci U S A. 2004 Oct 12;101(41):14812-7. Epub 2004 Oct 1.

ということで、効果絶大なDNAバーコードですが、今後ますます普及していき、博物館の標本ラベルにもDNAバーコードが記される日も近いのでは?と言われています。そのあたりの議論は、以下のNatureおよびScienceの記事によくまとまっています。

Counting angels with DNA.

Will DNA bar codes breathe life into classification?


最近は多様性の研究にもこういう形で大きな資金が入っているんですね。自分に関係のありそうな身近なレベルでは、昆虫の幼虫や卵などの同定に便利に使えそうです。また、肉食動物の餌メニューを調べたり、他にも応用方法はいろいろありそうですね。
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2006年01月14日

Strepsiptera problem

昨日の続きです。ネジレバネは寄生生活に適応して形態がめちゃめちゃに変化してしまっているため、どの昆虫と近縁なのか判別しがたい、ということがあったようです。ネジレバネのメスは無翅ですが、オスには前翅が変化した擬平均棍と扇状の後翅を持ちます。後翅を飛翔に使うことや生態などを考慮して甲虫のオオハナノミ類に近縁であるとする説が有名であったようです。

ですがWhiting et al. 1997をはじめとするrRNAに基づいた分子系統樹(一部形態も考慮)ではネジレバネは双翅類と近縁であるということになり、あろうことかネジレバネと双翅類はホメオティックな変異によって中胸と後胸のアイデンティティーが入れ替わったものだとまで言いだしました(さすがにそれはないだろう…)。

The Strepsiptera problem: phylogeny of the holometabolous insect orders inferred from 18S and 28S ribosomal DNA sequences and morphology.
Whiting MF, Carpenter JC, Wheeler QD, Wheeler WC.
Syst Biol. 1997 Mar;46(1):1-68.

Insect homeotic transformation.
Whiting MF, Wheeler WC.
Nature. 1994 Apr;368: 696.

そして相変わらず事態は混沌としているのですが、どうも双翅類と近縁とする説も怪しくなってきたようです。

Intron insertion as a phylogenetic character: the engrailed homeobox of Strepsiptera does not indicate affinity with Diptera.
Rokas A, Kathirithamby J, Holland PW.
Insect Mol Biol. 1999 Nov;8(4):527-30.

The structure of the USP/RXR of Xenos pecki indicates that Strepsiptera are not closely related to Diptera.
Hayward DC, Trueman JW, Bastiani MJ, Ball EE.
Dev Genes Evol. 2005 Apr;215(4):213-9. Epub 2005 Jan 20.

これらの結果では双翅類と鱗翅類が共有する特徴をネジレバネは持っていないことから、ネジレバネー双翅類近縁説を否定しています。

これらの証拠は結構強力ですし、Whitingらの研究には批判者が多いようなので、ネジレバネー双翅類近縁説は旗色がだいぶ悪くなってきたように思います。かといって、ネジレバネー甲虫類近縁説は精子の微細構造の比較などから否定されていますのでやはり旗色が悪そうです。

この論争に決着がつく日がくるのでしょうか…。当事者達は延々と議論が続くのを楽しんでいるのかもしれません。
posted by シロハラクイナ at 22:57| ☁| Comment(0) | TrackBack(0) | 論文 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年01月13日

Tiny genomes and endoreduplication in Strepsiptera

Tiny genomes and endoreduplication in Strepsiptera.
Johnston JS, Ross LD, Beani L, Hughes DP, Kathirithamby J.
Insect Mol Biol. 2004 Dec;13(6):581-5.

今日はこれから縦コン(来年度から研究室に配属される3年生と、研究室にいる学生達との交流飲み会)なので、あまり時間がない!というわけで、手抜きですが手元にあった論文を紹介します。

ネジレバネはちょっとマイナーなですが、寄生性の小さな昆虫です。形態、生態、系統関係など、奇妙で謎が多いため、昆虫研究者のあいだではちょっと人気があるのではないでしょうか?この論文では、ネジレバネのゲノムサイズが今までに調べられた昆虫の中で最小であることを報告しています。また、そのためかかなりのendopoliploidyが見られるようです。

あー本当に時間がないので、系統の話も含めて続きは明日書きます。
posted by シロハラクイナ at 18:28| ☁| Comment(0) | TrackBack(0) | 論文 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年01月10日

Synergy between sequence and size in large-scale genomics

Synergy between sequence and size in large-scale genomics.
Gregory TR.
Nat Rev Genet. 2005 Sep;6(9):699-708.

最近、私はシロアリのゲノムサイズを測定していたのですが、ゲノムサイズ測定屋というのは一つの業界を形成しているようなのです。そしてGregoryはここ数年で論文を書きまくっている中心人物の一人です。

ゲノムサイズ業界は、ゲノムシークエンシングを行う人たちで構成されるいわゆるゲノム業界とはちょっと隔絶していて、ちょっとローテクでのんびりした雰囲気があります。最近はフローサイトメトリーを使った方法や画像解析を使った方法で測定しますが、いずれも核DNAに結合させた色素の量を測るというもので、DNA配列を扱うわけではありません。

で、このレビューの主旨は、ゲノムサイズ情報とゲノム配列情報を相互に役立てていこう、ということです。配列情報を利用することでゲノムサイズ進化の要因が検証でき、実際に徐々にわかりつつあります。また、ゲノムプロジェクトによって配列を解読される生物は分類群内でもゲノムサイズが小さいものに偏っており、既知のゲノム配列に基づいてゲノム進化を論じる際には注意が必要とのことです。

ゲノムサイズ進化の要因については、たくさんあるGregoryのレビューを読むと良さそうです。↓

The C-value enigma in plants and animals: a review of parallels and an appeal for partnership.
Gregory TR. Ann Bot (Lond). 2005 Jan;95(1):133-46.

Genome size and developmental complexity.
Gregory TR. Genetica. 2002 May;115(1):131-46.

他、たくさんあります。(読み切れません…。)
posted by シロハラクイナ at 19:50| ☀| Comment(0) | TrackBack(0) | 論文 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年01月09日

The genomic response to 20-hydroxyecdysone at the onset of Drosophila metamorphosis


The genomic response to 20-hydroxyecdysone at the onset of Drosophila metamorphosis.

Beckstead RB, Lam G, Thummel CS.
Genome Biol. 2005;6(12):R99. Epub 2005 Nov 21.

Thummelのグループから、またDrosophilaの変態についての重要な論文です。既にG-hopさんによってわかりやすく解説されていますが、特に手法において自分たちの研究の参考になりそうなのでメモしておきます。

この論文では、Drosophilaの幼虫の培養組織に20Eを投与し、応答する遺伝子をマイクロアレイやノザンブロットで調べているのですが、その際に翻訳阻害剤シクロヘキサミドを併用することで、20Eに対して直接応答しているのか否かを判別しているのです。

数年前に、ある研究者の方からシクロヘキサミドを使う方法についてお聞きしたことがあったのですが、今回あらためてこの手法を思い出し、自分たちのカースト分化の研究にも使ってみたいなと思った次第です。
posted by シロハラクイナ at 20:28| ☀| Comment(2) | TrackBack(0) | 論文 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年01月04日

Ultrastructure, Development, and Homology of Insect Embryonic Cuticles

Ultrastructure, Development, and Homology of Insect Embryonic Cuticles
Konopova B, Zrzavy J.
J Morphol. 2005 Jun;264(3):339-62.

昆虫の胚期におけるクチクラの構造の記載を基に、それらの系統間での相同性を論じた論文です。

一見するとかなり瑣末な問題を扱っているようではありますが、実は昆虫の発生と変態様式の進化を議論するために絶対必要な情報を含んでいます。特にずっと昔から続いている議論である、「完全変態昆虫の幼虫larvaは、不完全変態昆虫の幼虫nymphに由来するものか、否か」という大問題(分野外の人にはそうでもないか…)に対し、真っ当な形態学から取り組む姿勢はかっこいいです。

この論文で示されている内容は以下の通りです。

胚期に見られるクチクラの構造と数を観察した結果、無翅昆虫シミ類Zygentomaでは2回、不完全変態昆虫とほとんどの完全変態昆虫では3回、双翅類のハエ類Cyclorrhaphaでは2回のクチクラ形成が起こっていました。これに最も妥当な解釈を加えると、シミ類の1齢幼虫は有翅昆虫の前幼虫prolarvaと相同、ハエ類では胚期の2番目のクチクラが進化的に失われている、ということになります。ハエ類を除けば、不完全変態昆虫と完全変態昆虫の胚期クチクラ形成は良く似ていました。

これは、「完全変態昆虫の幼虫larvaは、不完全変態昆虫の幼虫nymphに由来する」という仮説に、有力な支持を与えるデータです。

僕は、1999年のTruman&RiddifordのNatureの論文に感銘を受けたのですが、今回紹介した論文はその内容に真っ向から反論するものでした。これを読んでしまうと、Truman&Riddifordの議論は確かに細部が甘いというか、強引な所が多かったですね。ですが大変に面白い事も確かなので、そのうち改めて紹介したいと思います。
posted by シロハラクイナ at 18:12| Comment(1) | TrackBack(0) | 論文 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2005年12月28日

Disruptive coloration and background pattern matching

Disruptive coloration and background pattern matching
Cuthill IC, Stevens M, Sheppard J, Maddocks T, Parraga CA, Troscianko TS.
Nature. 2005 Mar 3;434(7029):72-4.

Disruptive colorationの捕食回避効果を、厚紙で作ったガのモデルを用いて実験的に検証した論文です。研究室の論文紹介で紹介したので、便乗してここでも紹介することにしました。

Disruptionは日本語では分断と訳されることが多いようです。コントラストの強い模様によって生物の輪郭を認識しづらくするもので、極端な例ではパンダの模様もそうではないかと言われています。

まず、専門外なので研究の背景から勉強しなければならなかったのですが、分断色の効果が、これまで実験的に証明されていなかったのはむしろ僕にとっては以外でした。軍事目的では昔から有名なようで、僕も迷彩の種類として聞いたことがありました。

まあとにかく、この論文では、分断色に塗られたガの模型を使って、鳥類に対する捕食回避効果が示されました。その際に、背景との色の一致(Background matching)の効果と分けて考えるため、模型の縁に模様がかかっているものと、かかっていないものを比較したのがポイントですかね。縁にかかった模様のほうが、捕食回避効果が高いのでした。

この論文自体はとてもシンプルなのですが、これをきっかけに生物の体色の意味について、いろいろ考えさせられました。ある生物がなぜその体色なのか、必然性があるのか、考えてみると面白いです。確からしそうな説明を考えついても、それを実験的に証明するのはとても難しいですけれど。
posted by シロハラクイナ at 00:30| Comment(0) | TrackBack(0) | 論文 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする