生物学・科学に関する雑感。

現在ウィスコンシン・マディソンに研究留学中


2009年02月24日

Vector and parameters for targeted transgenic RNA interference in Drosophila melanogaster.

キイロショウジョウバエ用の、RNAiベクターの開発と条件検討。この新しいベクターのポイントは、integraseに対応していること、可視マーカーとしてwhiteの代わりにvermilionを使っていること、ヘアピンの間にイントロンを挟んでいること、などです。

Vector and parameters for targeted transgenic RNA interference in Drosophila melanogaster.
Ni JQ, Markstein M, Binari R, Pfeiffer B, Liu LP, Villalta C, Booker M, Perkins L, Perrimon N.
Nat Methods. 2008 Jan;5(1):49-51.

昨日の論文とは別のグループによる、RNAiベクターの論文。p-elementによる導入だと、導入された場所による効果が出てしまって、効果が思ったより強かったり弱かったり、他の系統との統一的な比較が困難になったりするので、integrase系を用いてあらかじめ指定したドッキングサイトに入れられる方が好ましい、ということのようです。

whiteの代わりにvermilionを使っているのは、whiteの発現量(または遺伝子の存在量)は行動に大きな影響を与えてしまうので行動解析に向かない、という欠点を解消するためだそうです。表現型が微妙だから、スクリーニングはしづらいけど…。

私にとって(たぶん)重要なのは、ヘアピンの間にイントロンがあること。昨日の論文では、cDNAの配列を直接に逆向きに接続していて、間には制限部位(6bpのEcoRIサイト)しかありませんでした。ウワサですが、これだとクローニングの際に、組み替えでこの部位を消失しやすいのか、とにかくクローニングが難しくなるのだそうです。なぜイントロンを間に入れることで、それが解消するのかわかりませんが…(ここの根拠については調べている最中)。また、イントロンがあることで、RNAが細胞質に移行しやすくなり、効率が上がるのだとか(ここの根拠も調べています)。

あとは、まめちしきとしては、Dicer-2の過剰発現よりも、単に(エンハンサー+GAL4)のコピー数を増やした方が、効率があがるということ。それから、UASの個数を調節しても、大して効率は変わらないということ。これは、系のうちのどこの部分が律速段階になっているかにもよるんでしょうけどね。

とにかく今このベクターは手元にあるので(誰かが使おうと思って取り寄せてあったが、そのまま…というパターン)、そして昨日の論文のベクターは取り寄せに少し日数がかかりそうなので、とりあえずこちらで挑戦してみようかな。私の材料はmelanogasterではないので、いずれにしろベクターをだいぶ改造しなければいけませんが。
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2009年02月22日

A genome-wide transgenic RNAi library for conditional gene inactivation in Drosophila.

ショウジョウバエの既知のタンパク質コード遺伝子のうち88%をカバーするRNAi系統、合計22270系統を作出、その全体の傾向と有用性を述べた論文。

A genome-wide transgenic RNAi library for conditional gene inactivation in Drosophila.
Dietzl G, Chen D, Schnorrer F, Su KC, Barinova Y, Fellner M, Gasser B, Kinsey K, Oppel S, Scheiblauer S, Couto A, Marra V, Keleman K, Dickson BJ.
Nature. 2007 Jul 12;448(7150):151-6

ついに自分でもRNAiをやるはめに…。私は変な種類のハエを使っているので、キイロショウジョウバエのシステムをそのままは使えないのですが、既存のシステムから主要な部品を抜き出して使えば、わりとすぐにできそうです。それで、この論文を読んで、コンストラクトの作り方を勉強中。

キイロショウジョウバエでは遺伝子導入が容易であるし、GAL4/UASシステムもあるので、このような大規模なライブラリーを作って維持しておけば、いつでも望みのタイミング・場所で遺伝子ノックダウンができるのですね。Dicer-2の強制発現を組み合わせれば、さらにノックダウン効果を上げることも可能。重要な遺伝子は、ノックダウンすると致死になってしまうことが多いようなので、むしろ効果を弱める工夫も必要かも知れません。この論文では特に書かれていないようですが、これらの系統ではUASを10個も持たせてあるようなので、この個数を調節すれば、効果を調節することもできそうです。

しかもこれらの系統は、ウィーンのショウジョウバエRNAiセンター (VDRC: The Vienna Drosophila RNAi Center) で配布しているので、取り寄せてすぐ使うことが可能です。なんとまぁ便利な世の中。うちのラボでも、思いつきでお取り寄せされたものの、いまだ未使用の系統がそこらで飼われています。。
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2009年02月21日

Gene regulatory networks and the evolution of animal body plans.

遺伝子の制御ネットワークの中に "カーネル (Kernel)" などの構造を見いだ
し、その構造が進化に果たした役割についての仮説を展開したレビュー。

Gene regulatory networks and the evolution of animal
body plans.

Davidson EH, Erwin DH.
Science. 2006 Feb 10;311(5762):796-800.

恒例のジャーナルクラブ。今回も荒れました。私なんぞはScienceに載っている
レビューということもあって、それだけで御利益があるような気がしてしまうの
ですが、血気盛んなポスドクの皆さんは容赦なかったです。

このレビューは、どちらかというとPerspectiveとかHypothesisとしたほうが良
いような内容です。遺伝子の制御ネットワークの中に、コアとなる部分を見つけ
て、それを"カーネル"と名付けています。さらにそこに付け足されるユニットと
して、"プラグイン"、"I/Oスイッチ"というものを仮定しています。

カーネルは「制御遺伝子間のネットワークの一部で」「胚発生中に特定の体の領
域になる部分のパターニングに関与し」「他の用途には使われず(個々の遺伝子
の使い回しは良いが、ネットワークとしての使い回しはダメということ)」「循
環的な制御を持ち」「構成いずれか一つの遺伝子の発現が乱されても、発生に破
滅的な悪影響がでるような」ネットワークのことを指すそうです。

カーネルの例として、棘皮動物における内胚葉の分化に関わるネットワークと、
ハエと脊椎動物に共通する心臓の分化に関するネットワークをあげています。

さらに踏み込んで、このカーネルの構造が、おおむね動物の「門」レベルのデザ
インに対応していると主張。このあたりは明らかに言い過ぎで、のちのTechnical Commentで批判を受けている部分でもあります。

コメントはこちら。
Comment on "Gene regulatory networks and the evolution of animal body plans".
Coyne JA.
Science. 2006 Aug 11;313(5788):761; author reply 761

私としては、Davidsonらのだいたいのアイディアには同意するのですが、いかんせん背景となるデータがまだ曖昧で、本当に明瞭な”カーネル”構造が存在するのか、それともネットワーク構造は緩やかに厳密さを失いながら下流へ周辺部へ広がっているのか、判断しようがありません。現実は後者により近いのではと推測するのですが、どうでしょうか。また、「門」レベルのボディプランに対応うんぬんというのは、飛躍のしすぎだと思います。他のポスドクたちの論評はもっと過激で、こんなものは戯れ言だ、と切り捨てていましたが…。

また、ここには、生物の系統のなかに量的でない質的な区切りのようなものがあるのか、という問題も存在します。例えばカンブリア爆発などに対応させて、「門」というものを特別な存在と見るのか、単に歴史が古いために違いが蓄積したものに過ぎないと見るのか、これらは古くからある二つの見解だと思います。Technical CommentでのCoyneは、後者の見解ですね。このレビューの著者らが主張するように、質的な区切りが、ボディプランの制御をしているネットワーク構造の性質に由来しているのだとすれば、なにか大きなことを説明できた気になって誇らしいのかも知れませんが、現実はもっとややこしいでしょうし、相当にデータを積み上げないと、このアイディアの検証すら難しいでしょう。

2009/2/20 午後5時ごろ(セントラルタイム)、タイトルからGeneのGが抜けていたので足しました。また、テクニカルコメントへのリンクも追加。投稿日時が1日ずれてしまったので21日に修正。日本時間では21日なので。
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2009年02月15日

Natural variation in the splice site strength of a clock gene and species-specific thermal adaptation.


Natural variation in the splice site strength of a clock gene and species-specific thermal adaptation.

Low KH, Lim C, Ko HW, Edery I.
Neuron. 2008 Dec 26;60(6):1054-67.

キイロショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)は、夏の暑い日には”Siesta" (お昼寝)をします。季節による温度変化が少ない熱帯に住むDrosophila yakubaなどの近縁種にはこの習性が無く、昼寝は、温帯に進出したmelanogasterとsimulansに特有の適応だと考えられているそうです。これは、温度の情報が何らかのかたちで体内時計に作用していると考えられているのですが、この論文では、periodのイントロンが温度依存的にスプライスされることが、その入力の実体だと主張しています。

本当にそのとおりであればすごい論文だと思って読み始めたのですが、しかし論文の後半に行くにしたがってデータが怪しくなっているような気がします。特にFig 5.のレスキューの実験はわけがわからないし…。全くレスキューできていないように見える…。per変異体にmelanogasterのイントロンを付けたper配列を入れようが、yakubaのイントロンを付けたものを入れようが、どっちもしっかり昼寝しているようなのだが…。
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2009年02月06日

Evolutionary analysis of the well characterized endo16 promoter reveals substantial variation within functional sites.

Evolutionary analysis of the well characterized endo16 promoter reveals substantial variation within functional sites.
Balhoff JP, Wray GA.
Proc Natl Acad Sci U S A. 2005 Jun 14;102(24):8591-6.

アメリカムラサキウニの種内、および近縁種間で、 endo16という遺伝子のcis領域がどのような変異を持つか調べた論文。驚くべきは、転写開始点に近い部分を除けば、cis領域は非常に変異に富み、タンパク質の結合が知られている部分ですら、他の"無意味な"配列と比べても変異の量に変わりがないということ。

これは、cis領域にまったくと言っていいほどに拘束がかかっていないことを意味するのか、はたまた、ネガコンとして使っている"無意味"な配列が、実はしっかり拘束を受けているのか。cis領域内のタンパク質結合配列は、"群れ"をなしている場合も多いので、そのうちのひとつやふたつ無くなっても構わない、そしてそうこうしているうちに偶然に新しい結合配列が生じることで、常にターンオーバーしているのだ、という考え方もできますが、それにしてもまったく拘束されていないということは無いと思うし。単に検出力が低すぎて、選択の痕跡がノイズに埋もれているのか。いまひとつ釈然としない読後感でした。
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2009年02月05日

Two or four bristles: functional evolution of an enhancer of scute in Drosophilidae.

Two or four bristles: functional evolution of an enhancer of scute in Drosophilidae.
Marcellini S, Simpson P.
PLoS Biol. 2006 Nov;4(12):e386.

最近になって存在に気づいた論文。私たちとやっていることが近いので、どうしていままで知らずに来たのか不思議なくらいです。

ほどんどのショウジョウバエは、背中に2対の剛毛をもちますが、Drosophila quadrilineata (ダイダイショウジョウバエ)というハエは、例外的に4対の剛毛を持ちます。そしてこれはachaete-scute complexという遺伝子群のcis制御領域に起きた進化によって説明できる、という結論です。quadrilineataのcis領域に、melanogasterのscuteをくっつけて、内在のcis領域を欠失したmelanogasterに導入してやると、ちゃんと4対の剛毛ができるのです。

胸部のトランス・ランドスケープについても勉強になったし、面白い論文なのは間違いないです。しかし、やはり注目しているcis領域に結合する因子を特定できなかったのが弱いところか。melanogasterを含む多くのショウジョウバエにおいて、胸部の前のほうで剛毛ができないように抑制している因子、というものがまだ特定されていない、ということが響いているようです。これでその因子まで特定でき、近縁種も含めてcis制御の進化を辿れていれば、間違いなくNature行きだったんでしょうけど。


関係ないけれど、quadrilineataというのはショウジョウバエの中では美しい種類の一つで、オレンジ色の胸部に、黒い縦縞が入っています。(元M本研の方たちは、Gさんが趣味で飼っていたハエといえばわかってもらえるでしょうか。覚えてないですか?)ショウジョウバエには、他にも明瞭な縦縞を持つものが何種もいるので、その模様の役割や、模様形成のメカニズムも含めた進化の背景にはすごく興味があります。
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2009年01月30日

An optimized transgenesis system for Drosophila using germ-line-specific phiC31 integrases.

An optimized transgenesis system for Drosophila using germ-line-specific phiC31 integrases.
Bischof J, Maeda RK, Hediger M, Karch F, Basler K.
Proc Natl Acad Sci U S A. 2007 Feb 27;104(9):3312-7. Epub 2007 Feb 22.

最近はp-elementによる遺伝子導入の代わりに、もっぱらintegraseを使った系を用いています。これはそのシステムの構築を報告した論文。いま私がいるラボでは、この論文が公表される前から、著者たちから系統をもらって使い始めていたようです。p-elementよりも優れている点は、導入効率がやや高いこと、酵素の供給源となるヘルパーを同時にインジェクションする必要がないこと(integraseを生殖系列で発現する系統が利用できるため)、導入場所をあらかじめ指定できるので導入位置の効果を考えずに済むこと、などでしょうか。なお、導入場所となる”着地点”は、marinerというトランスポゾンに乗せて導入してあります。integraseは、p-elementを用いて導入してあります。

ところで、ここからは論文の内容とは関係ないですが…。ラボでは、大量に遺伝子導入系統を作る場合には自分でどんどんインジェクションしないといけないですが、ちょっとやる場合には技官さんにお願いしてしまうのが楽ちんです。導入したいコンストラクトを精製して技官さんに渡せば、しばらくしたら赤眼のハエが渡されるという寸法です(white遺伝子をマーカーとして導入するので、赤眼のハエは導入された遺伝子を持つ個体)。

こういうサポート体制の充実も、研究をスピードアップするのにとても有効だと思います。そのほか、DNAシークエンス、LBやPBSなどの調整、ハエのエサの準備、洗い物、物品の発注など、かなりのことを専門のスタッフさんがやってくれます。それぞれ熟練するとかなりのクオリティとスピードが実現できることなので、ビル単位で専門家がやった方がずっと効率的なわけです。研究者は「考えるのが主な仕事」。また、必ずしもPI(教授など)に向いているとは言えないけれど、大学での研究に携わっていたい人にとって、Research scientistとかResearch associateとかResearch assistantなど色々な職種があって、ほどほどに頑張りながら食っていける場を持てるというのもこのシステムのメリットだと思います。

このような分業はいかにもアメリカ的と言われ、日本の大学ではあまり見られないと思います。理研などリッチな研究機関はちょっとアメリカに近いかもしれません。考えてみましたが、特にこの分業システムのデメリットは見つからない気がします。あえて言うなら、若者に全て自分でやる能力をつけさたり、根性を育てたりする機会を失ってしまう?
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2009年01月25日

Human vision fails to distinguish widespread sexual dichromatism among sexually "monochromatic" birds.

Human vision fails to distinguish widespread sexual dichromatism among sexually "monochromatic" birds.
Eaton MD.
Proc Natl Acad Sci U S A. 2005 Aug 2;102(31):10942-6.

バードウォッチングをする人にとっては、鳥の羽衣の性的二型はおなじみだと思います。要は、オスとメスで色が違うということです。

私は、バードウォッチャーとしては「カモ好き」なのですが、常々疑問だったのは、マガモはオスが青首といわれる緑の顔でメスが地味な茶色、それに対して非常に近縁で雑種がよく見られるほどのカルガモは、オスもメスも茶色くて区別がつかないということです。近縁種で繁殖行動も似ているだろうに。マガモのオスの羽衣はとても派手で、維持にはコストも掛かっていると考えられ(作るための資源も、捕食リスクの増大も)、シーズンオフにはエクリプスと呼ばれる地味な羽衣で過ごすこともその証拠の一つと言われているはずです。でも近縁種ではオスも地味。鳥のことをちょっと知っている人ならば、こういう例はたくさんあげられると思います。

今日紹介したい論文は、この疑問に対して、意外な答えを与えてくれました。我々が見えていないだけで、鳥たちからしてみれば、多くの鳥(ここではスズメ目のデータを示している)は色彩に二型がある、というものです。人が見てオスメス同色の139種の鳥の標本を用いて、光の反射スペクトルを測定、鳥は一般に紫外光が見えるといわれているので、そのデータに基づいてデータ解析すると、90%以上の種が、鳥から見ればオスメス別の色に見えている、という結果。識別できる閾値の設定によって多少結果はかわるようですが、いずれにせよ驚きの結果です。ということは、そのあたりを歩いているスズメを紫外線撮影したら、オスメスでまったく別の模様に写ったりするのでしょうか…。
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2009年01月21日

Drosophila melanogaster's history as a human commensal.

Drosophila melanogaster's history as a human commensal.
Keller A.
Curr Biol. 2007 Feb 6;17(3):R77-81.

Drosophila melanogaster (キイロショウジョウバエ)が、いかにして世界中に広まったのか、に関するレヴュー。

アメリカ大陸に侵入したのはわずか100年前であるとか、ハワイに侵入したのはハワイ大学から逃げたせいだとか、役に立つような、そうでもないような知識が満載でした。melanogasterのもともとの食物が何だったのかはよく分かっておらず、野生のバナナを含む複数の果物であったのではないかと言われているようです。
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2009年01月17日

Sociobiology as an adaptationist program

Sociobiology as an adaptationist program
Behav Sci. 1979 Jan;24(1):5-14.

ルウォンティンによる、ウィルソン「社会生物学」批判。私はその批判の内容にはあまり興味はなくて、先日触れたマルピーギ管の話の部分を詳しく読みたくて、学内の医学・保健系の図書館でコピーを入手。

学内でだいたい欲しい文献が手に入ってしまうのは、この大学の良いところのひとつです。日本だと、生物学の文献が一番充実しているであろう東大や京大でも、中堅どころのアメリカの大学にはかなわないと思います。(もちろんアメリカの大学は主に英語の文献を収集するだけでいいので、楽なわけですが。)

それで、肝心のマルピーギ管の話ですが、先日引用した部分以上のことは全く書かれていませんでした…。もっと詳しい説明とか、引用文献があることを期待していたのですが。red eye pigment metabolismなんていう書き方は、おそらくショウジョウバエを想定して書いていると思うのですが。ショウジョウバエの複眼色の変異体(whiteとかvermilionとか)ではマルピーギ管の色も薄いことが知られているので、おそらくそのことでしょう。

しかし、考えてみれば内臓の色というのは、まったく自然選択にさらされていない、制約のない状態で進化した色であり、それでも生物によって臓器によって色はさまざまであるというのは面白い気がします。グラスフィッシュのように、(捕食者からの隠蔽のため?)内臓ごと無色にするには、逆にコストが発生するのでしょう。
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2009年01月15日

Introduction: Experimental Approaches to Testing Adaptation

Introduction: Experimental Approaches to Testing Adaptation
Johanna Schmitt
Am Nat 1999. Vol. 154, pp. S1–S3

生物の形質が「適応的」なものかどうか、判別するのはとても困難なことで、実験的に証明できれば一番なのはいうまでもないけれど、その「証明」にも様々なレベルのものがあると思います。

比較的やりやすいのは、特定の2地域に適応していると思われる地域系統を取ってきて、環境を入れ替えてやり、元よりも適応度が下がったことをもって、元の地域に適応していた証拠とするもの。しかしこれでは、どの形質が、環境のどのような要素との関係において適応的なのか、示すことは難しい。

そこで、生物の形質の側を操作してやって、適応度がどのように変化するか見る。これは理想的ですが、実際にどこまでできるのか、技術的なところが大きな壁ですね。この論文は、そういうチャレンジについてのシンポジウムの特集号のイントロダクションのようですが、興味深いキーワードが多かったため検索に引っかかって目に留まったのでした。

私はマディソンに来てから、ハエの色彩の進化の至近メカニズムに取り組んでいて、それはそれで重要だし面白いのだけれど、やはりそのような形質の進化を引き起こした究極要因と結びついて初めて強力なストーリーになると思っているので、いつかなんとかその境地にたどり着けないか、と考えているのです。いま使っているマニアックなハエでは無理そうだけれど。やっぱり、melanogasterに始まってmelanogasterに終わる、か…。なにしろ、「形質を操作できる度合」でいえば、動物界で間違いなくトップクラスだし…。
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2008年12月24日

Efficient gene targeting in Drosophila by direct embryo injection with zinc-finger nucleases

Efficient gene targeting in Drosophila by direct embryo injection with zinc-finger nucleases.
Beumer KJ, Trautman JK, Bozas A, Liu JL, Rutter J, Gall JG, Carroll D.
Proc Natl Acad Sci U S A. 2008 Dec 16;105(50):19821-6

昨日の続きです。相同組み替えに頼ったターゲティングは、あまり効率が高くないのは確かなようで(自分でやっていないので実感としてはわかりませんが)、この論文では、Zinc-finger nucleaseという人工的にデザインされた酵素で、ゲノム上の狙った場所を直接切断することでターゲティングを行っています。Zinc-finger nucleaseは、ひとつの酵素に3つのZinc-fingerを持たせておいて、連続した9塩基を認識することができます。2量体で働くので、切断したい場所を挟んだ18塩基分の配列を考慮してデザインすることで、完全に特異的な領域を切断できるわけです。酵素をコードするmRNAを作っておいて、これを卵にインジェクションすると。多くの場合、切断されたゲノムを細胞が修復する過程でミスが入って、突然変異となるようです。

さらに、修復酵素の変異体(lig4)を用いて修復を阻害し、望みの配列を含むプラスミドをZinc-finger nucleaseとともにインジェクションすることで、細胞はプラスミドとの相同組み替えでなんとかDNAを修復するらしく、望みの配列を持った変異体を得ることができるようです。

もしこれが、ゲノム上のどの領域でも、本当に論文に書かれているような高効率で出来るとしたら夢のような技術だと思うのですが、あんまり大騒ぎになっていないところを見ると、おそらくどこかにデメリットがあるんでしょうか?Zinc-finger nucleaseのデザイン、作成が面倒くさそうなのはわかるのですが、そのうちに外注で作ってくれる会社も現れそうだし、この手法が一気に広がる可能性もあると思うのですが、どうでしょう。
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2008年12月23日

A powerful method combining homologous recombination and site-specific recombination for targeted mutagenesis in Drosophila

最近、私はショウジョウバエを使った実験をしていますが、Drosophila melanogaster (キイロショウジョウバエ)ではない、変な種を使っているので、melanogasterでの分子遺伝学テクノロジーには正直ついて行けていません。まぁしかし、ここC研ではmelanogasterを使っている人も多くいるので、新しい技術を見たり聞いたりする機会はけっこうあります。

目的にもよるのでしょうが、最近C研では遺伝子導入の方法として、p-element系からintegrase系に移行していて、これによりゲノム中の、あらかじめ用意した着地点に遺伝子を導入できるため、position effectの影響を避け、かつ高い効率を実現しています。解析したいエンハンサーに、EGFPなどのレポーターをくっつけて、integraseで導入する、というのがよくやる実験です。

突然変異の導入法も、これまた目的にもよるのでしょうが、p-elementを用いたランダムな方法から、ジーンターゲティングと呼ばれる、特定の遺伝子を狙ってつぶす方法に移行する流れのようです。しかし効率にはまだ問題があって、一つのラインを作るのに、なんだかんだで、だいたい半年くらいかかってしまう、と言われているそうです。そういうわけで、いかに高効率に、短時間で行うか、という技術開発も盛んです。アメリカ人ポスドクのTさんが、C研では初めてターゲティングに取り組もうとしており、ラボセミナーで概略を話してくれたのですが、なんだか方法がさっぱりわからない。(…私の聞き取りの問題かと思ったのですが、あとで聞いたらみんな分かっていなかった!)そこで原著を丁寧に読んでみようと思ったわけです。

A powerful method combining homologous recombination and site-specific recombination for targeted mutagenesis in Drosophila
Gao G, McMahon C, Chen J, Rong YS.
Proc Natl Acad Sci U S A. 2008 Sep 16;105(37):13999-4004


この論文では、一つの遺伝子に対して複数の異なった変異を入れて比較解析したい場合に便利な手法を開発しています。あらかじめ、狙う遺伝子の近傍にintegraseの着地点を、相同組み替えによるジーンターゲティングで導入しておいて、そこにintegraseによって望みの変異を入れる、という二段階方式をとります。時間と手間が掛かるのは初めの相同組み替えの部分なので、一度それさえ出来てしまえば、そこにintegraseで変異を入れるのは楽ちん、というわけです。従来の一段階方式だと、時間のかかる相同組み替えを、欲しいすべての変異についてやらなければいけなかったので、それを考えるとだいぶ楽になるというわけです。

方法はこの論文のFig1に図解で示されているのですが、これがまぁややこしい。一旦概略を理解してしまえばそう難しくはないのでしょうが…。

最近、また別のコンセプトによるターゲティング法も開発されているので、そちらも後日紹介したいと思います。
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2008年09月11日

Shadow enhancers as a source of evolutionary novelty.

Shadow enhancers as a source of evolutionary novelty.
Hong JW, Hendrix DA, Levine MS.
Science. 2008 Sep 5;321(5894):1314.

ショウジョウバエ胚のパターニングに関わるbrkやsogにおいて、主要なエンハンサーと機能的に似かよった"影の"エンハンサーが存在しているという報告。手法的には、CHIP-chipを使っているようですね。"影の"エンハンサーは、主要なエンハンサーよりも進化速度が速く、主要なエンハンサーに元の機能を保持させつつ、"影の"エンハンサーが新たな発現パターンを獲得しうる、かもしれない、という、少々出来すぎたお話。遺伝子重複による進化、という考え方の、エンハンサー版ともいえるでしょう。

ところで、最近ScienceのBreviaで気になるのは、メインデータがほとんどSupporting Online Materialに押し込められてしまっているということ。公開当初はいいけれど、何年、あるいは何十年かたってから、Supportingのほうが見られなくなりそうで心配です。

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2008年08月28日

Crustaceans.

Crustaceans.
VanHook AM, Patel NH.
Curr Biol. 2008 Jul 8;18(13):R547-50.

Current Biologyの、"Primer"というコーナーは、素人向けに材料やジャンルの解説がされていて勉強になります。

これは甲殻類の研究についての軽い紹介とパースペクティブです。ここではちょっとしか触れられていないのですが、どうも甲殻類のEvoDevo業界では、端脚類amphipod のParhyale hawaiensisという材料が熱いみたいですね?ちょっと関連論文も勉強中です。
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2008年08月24日

The Regulation and Evolution of a Genetic Switch Controlling Sexually Dimorphic Traits in Drosophila

The Regulation and Evolution of a Genetic Switch Controlling Sexually Dimorphic Traits in Drosophila
Thomas M. Williams, Jane E. Selegue, Thomas Werner, Nicolas Gompel, Artyom Kopp, and Sean B. Carroll (2008)
Cell 134, 610-623.

つい最近出た、アメリカ人ポスドクTさんの論文。足かけ4年の大作で、内容もすばらしいが、データ量がすさまじい。本文はともかく、Supplemental dataが52ページもあるんですけど…。セカンドオーサーはラボの技官の方で、この圧倒的なデータ量は彼女の働きによるところが大きいそうです。表紙もとれて、性的二型の話ということで、エンハンサーの配列をバックに、ライオンがこちらをにらみ、カブトムシが飛ぶという、なんだかすばらしいことなっております。

内容は、キイロショウジョウバエD. melanogasterにおける性的二型の制御とその進化的起源に関するもので、bab1という遺伝子のcis領域の解析が軸になっております。キイロショウジョウバエは、melanogasterという名のとおり、腹が黒いのですが、これはオスだけに見られる特徴です。bab1の産物は黒色色素の沈着に関わるyellowを抑制することが知られているので、この遺伝子のcis領域に起こった進化が、ショウジョウバエの性的二型の進化の直接の引き金になっている可能性が高いのです。

従来の類似の仕事と比べると、babはcis領域がやたら大きく、5'側も、第1イントロンも、それぞれ数10kbあるので、最初のころは解析が大変だったらしい。babの発現に性的二型をもたらすエンハンサーを特定した後も、ABD-Bの結合サイトが大量にあってとにかく大変。しかも色彩に性的二型がないD. willistoniと比べてみると、意外なことにおおかたの転写因子結合サイトは保存されている…。結局、エンハンサー内部にある転写因子結合サイトの間の距離(スペーシング)や結合サイトの向き(ポラリティ)の変化が、bab1の発現領域を大きく変えて、結果、色彩の二型をもたらしたのではないか、という結論。

(bab1は黒色色素の沈着を抑制する因子なので、その発現は色彩のパターンと逆になっているし、腹部の前半と後半で別のエンハンサーによって制御されているため、ちょっと全体を理解するのに時間がかかると思います。私も最初に聞いたときは、なんのことやらわからなかった…。)

書き方もうまいというか、実はよく理解するとつっこみどころもあるのだが、有無を言わさぬストーリー展開とデータ量でねじ伏せてくる感じ。良くも悪くもC研の味が濃厚に出た論文なのではないでしょうか。
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2008年08月23日

Evo-devo and an expanding evolutionary synthesis: a genetic theory of morphological evolution.

Evo-devo and an expanding evolutionary synthesis: a genetic theory of morphological evolution.
Carroll SB.
Cell. 2008 Jul 11;134(1):25-36.

ボス単著のレヴュー。気合い入ってます。「cis配列の進化によって、形態の進化が起こることが多いんじゃないの?」という見方を補強する証拠を集め、また最近多い反対意見に対する再反論を行っています。これで言いたかったことはだいたい言い尽くしたのではないでしょうか?そろそろ、ラボの次の方向性を模索し始めている模様…。
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2008年07月30日

The Spandrels of San Marco and the Panglossian Paradigm

The Spandrels of San Marco and the Panglossian Paradigm: A Critique of the Adaptationist Programme.
S. J. Gould and R. C. Lewontin (1979)
Proceedings of the Royal Society of London. Series B, Biological Sciences, Vol. 205, No. 1161, pp. 581-598

グールドの論文なんてあまり読む機会もないと思っていましたが、フランスから来ているHさんがジャーナルクラブで取り上げたので、メモしておきます。一般向けに書かれているエッセイシリーズとは違って科学の論文らしい論文なのかと思って読むと、ギョッとさせられます。書き出しはサンマルコ大聖堂の構造の話で、とても生物学の論文とは思えない。これではいつものエッセイと同じではないか…。

サンマルコ大聖堂の壁と天井の間あたりにあるスパンドレルという三角形の構造には、美しい宗教画が描かれており、周辺の装飾と相まって見事な芸術的調和を見せている。しかし、実はこのスパンドレルは、アーチ状に設計された柱の隙間にできてしまった三角の部分で、仕方なく絵で埋めてあるに過ぎない。生物の構造にもこういう場合があるのではないか?つまり、その構造が進化したのは他の構造や適応のための副産物で、現在はたまたま別の目的にも使われている、という場合があるのではないか?と。

また、フランス文学「カンディード」に登場するパングロス博士のセリフ「鼻は眼鏡をかけるためにある、足はズボンをはくためにある」という部分を引き合いに出し、適応万能主義を皮肉っています。その後にやっと生物の話で、二枚貝の表面にある溝など、様々な例をあげていますが、基本的には、根拠の薄い適応的解釈を批判するものとなっています。

どうも、歴史的な意味でも重要な論文らしい。当時は適応万能主義が勢いを持っていて、人の行動も適応進化の結果である生得的な性質で説明できるとの考え(いわゆる社会生物学)が広まりつつあり、この論文はそのような時代背景で書かれたということです。社会生物学論争はそれはそれで激しかったようなので、この論文は番外編、あるいは場外乱闘といったところ?

ところで、不謹慎ですみませんが、例の落書き騒動がサンマルコ大聖堂だったらタイムリーだったのですが、そちらはフィレンツェの大聖堂だったみたいですね。「冷静と情熱のあいだ」に出てきた大聖堂は…と思ったらこちらもフィレンツェ。もし行ったことがあったら、イメージがわくのだろうけど。

Spandrel (biology)(wikipedia)
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2008年07月15日

The gene regulatory logic of transcription factor evolution.

The gene regulatory logic of transcription factor evolution.
Wagner GP, Lynch VJ.
Trends Ecol Evol. 2008 Jul;23(7):377-85.

最近あまり記事を書いていないので、せめてジャーナルクラブで紹介された論文をメモっておきます。

形態の進化はcis制御の進化によって起こることが多そう、という最近はやりの考え方に異議を唱えるミニレビュー。著者はEvo-Devoの理論的な切り口で有名なWagner氏とお弟子さん。

要は、cis制御領域だけでなく、転写因子もモジュール構造を持っているため、もともとの機能を損なわずに新しい機能ドメインを獲得したり失ったりして、新しい制御様式を進化させうる、という主張のようです。まぁ、そりゃそうなんだろうけど、実際にはそういう例は多くはなさそうですよね。そして、たまにはそういうこともある、というのでは、なんか当たり前すぎて、わざわざ言うことでもない気がする…。

(でも引用されている論文は結構おもしろいものがあって、例えばグレートピレニーズの狼爪は、転写因子Alx-4のコード領域の一部失欠によって起こっているらしい、という話は知らなかったのでメモ。)

この論文の内容を拡張したバージョンも、もうすぐEvolutionに出るようです。


RESURRECTING THE ROLE OF TRANSCRIPTION FACTOR CHANGE IN DEVELOPMENTAL EVOLUTION.

Lynch VJ, Wagner GP.
Evolution. 2008 Jun 18. [Epub ahead of print]
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2008年05月27日

Note on the occurrence of a flying crustacean in the Philippine Islands.

Note on the occurrence of a flying crustacean in the Philippine Islands.
Worcester, DC (1914)
Philippine Journal of Science Section D 9: 57.

生物学の文献も、あまり古くなると怪しげな魅力を放ち始めます。先日のエントリで書いたCrampton (1916)に引用されていた、飛行する甲殻類についての論文。一般に節足動物では飛翔するのは昆虫だけであると思われているし、もし本当であればなかなかインパクトがあるはず。当時のNatureにも紹介記事が出ているほどです(1914, Nature 93: 620)。

しかし論文の内容は目撃情報のみ、1ページ。場所はフィリピン、パラワン島の近海、その動物の体色は透明で、体長15から20センチメートル、ザリガニかエビのような形で (It had looked more like a crayfish or shrimp)、1〜2対の脚を前に、それ以外を後ろに向けた態勢で、海面から飛び上がって少なくとも2〜3ロッド (10〜15メートルくらい)飛行した、とのこと。それぞれ別の日に4度目撃しており、証人もいるとのこと。

著者はアメリカで教育を受け、大学で動物学を教えていた人物なので、この目撃情報にはそれなりの信憑性があると思います。続報を探したのですが、この動物が記載されたという情報や現在の生息状況などを見つけることができませんでした。この動物の正体をご存知の方は教えてください!なんかネッシーやビッグフットの怪しい特集番組みたいですが…。
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