生物学・科学に関する雑感。

現在ウィスコンシン・マディソンに研究留学中


2010年06月08日

The homolog of Ciboulot in the termite (Hodotermopsis sjostedti): A multimeric beta-thymosin involved in soldier-specific morphogenesis.

The homolog of Ciboulot in the termite (Hodotermopsis sjostedti): A multimeric beta-thymosin involved in soldier-specific morphogenesis.
Koshikawa S, Cornette R, Matsumoto T, Miura T (2010)
BMC Developmental Biology 10: 63
BioMed Central

さらにもう一件宣伝です。シロアリの兵隊分化の際には、頭部や大顎が大きくなるなど、組織の改編を伴った成長が起こります。そのときに発現が上昇するアクチン関連タンパク質の遺伝子HsjCibを解析した論文です。

もともと、Koshikawa et al. (2005, FEBS Letters) で、大顎組織を用いたディファレンシャルディスプレーによってこの遺伝子の断片が取られていました。今回、cDNA全長を決定し、体の各組織や様々な時系列でリアルタイムPCRなどで発現解析をし、結果として、この遺伝子が体中の多くの組織で発現していることを示しました。また、複数のアイソフォームが検出されていますが、それらの機能の違いについてのスペキュレーションも加えてみました。

残念ながらRNAiで明瞭なフェノタイプが出ず、それがこの論文の泣き所でもあるのですが、とにかくD論の最終章がなんとかこのように論文になったということで、とてもすっきりした気分です。関係者の皆さん、および関連論文を準備していた後輩たちにはご迷惑をおかけしました。

実験としては、RNAiをオオシロアリで初めて試みたほか、ウェスタン、ノーザン、サザン、in situと、自分にとってはまさに分子生物学実習となりました。このデータを取っていたころにはそういう風には思っていませんでしたが、当時学んだ技術や知識は、いまとても役に立っていると思います。
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2010年05月26日

Gene expression changes during caste-specific neuronal development in the damp-wood termite Hodotermopsis sjostedti.

Gene expression changes during caste-specific neuronal development in the damp-wood termite Hodotermopsis sjostedti.
Yuki Ishikawa, Yasukazu Okada, Asano Ishikawa, Hitoshi Miyakawa, Shigeyuki Koshikawa, Toru Miura
BMC Genomics 2010, 11:314 (20 May 2010)

ひきつづき宣伝です。オオシロアリの兵隊分化過程において、神経系での遺伝子発現の変化を追った論文。

I川Y希さんはシロアリのカースト分化に関連した神経系の改変と行動の変化について研究しており、これはそのうちの遺伝子発現に関する部分です。BMCシリーズの中でも難しめのGenomicsに掲載されました。そしてフリーアクセスなのがすばらしい。シロアリ関係者の方々、じゃんじゃん引用してください。

私は2005年に、大顎組織を用いて遺伝子発現の変化を見る論文を書いているのですが、この論文の結果と比較してみると、そのうちのいくつかは神経系で働いているのかも、と思います。シロアリの大顎はほとんど表皮と神経でできているので、当時、私は表皮で発現するものを取っているつもりだったのですが。同じプライマーセットでディファレンシャルディスプレーをしているので、どうしても似たようなものが釣れてくるという要素もあると思います。シークエンスのコストも日に日に下がっているので、次はESTでしょうか?
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2010年05月25日

Gene up-regulation in response to predator kairomones in the water flea, Daphnia pulex.

Gene up-regulation in response to predator kairomones in the water flea, Daphnia pulex.
Hitoshi Miyakawa, Maki Imai, Naoki Sugimoto, Yuki Ishikawa, Asano Ishikawa, Hidehiko Ishigaki, Yasukazu Okada, Satoshi Miyazaki, Shigeyuki Koshikawa, Richard Cornette, Toru Miura
BMC Developmental Biology 2010, 10:45 (30 April 2010)

共著論文の宣伝です。M川氏らによるミジンコの遺伝子発現に関する論文。

ミジンコ(Daphnia pulex、いわゆる普通のミジンコ)は、天敵であるフサカ(Chaoborus sp.)の幼虫、つまりボウフラがいる場合には、捕食されにくいように首にトゲを生やすことが知られています。ミジンコはゲノムが読まれていますし、表現型多型のメカニズムを明らかにする上で適しているのでは?ということで、フサカに対する反応を遺伝子発現レベルで調べたのがこの論文です。

もともとM浦研でI井さんが始めた仕事が、その間にゲノムが読まれて周辺情報が増えていき、それに対応する形でM川氏が引き継いで、このように立派な論文になったというわけです。大変めでたいことです。しかもオープンアクセスなうえに、掲載料はゲノムコンソーシアムの方で出してくれるとのこと。

ミジンコゲノムに関するcompanion paperは、以下のページで見ることができます。
http://www.biomedcentral.com/series/Daphnia
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2010年04月05日

Little effect of the tan locus on pigmentation in female hybrids between Drosophila santomea and D. melanogaster.

Little effect of the tan locus on pigmentation in female hybrids between Drosophila santomea and D. melanogaster."
Matute DR, Butler IA, Coyne JA.
Cell. 2009 Dec 11;139(6):1180-8.

さて、Jeong et al. 2008に対して出てきた反論がこの論文です。CellにはMatters Arisingという反論用のセクションがあり、そこに掲載されたものです。以下、私はCarroll研側の人間ですので、この論文に対しては否定的な見方をしていますが、そのあたりを考慮しつつお読みください。興味のある方は、ぜひ原文に当たってみてください。

この論文では、D. melanogasterとD. santomeaが交配可能であることを利用して、melanogasterの染色体欠失系統とsantomeaの交配により、santomeaのtanが機能を失っている事が、本当にsantomeaの腹部着色が薄いことの原因であるかどうかを検討しています。

そして彼らは結論として、tanはほとんど形質の違いに寄与していない、と主張しています。その根拠となっているのは、santomeaとmelanogaster野生型(バランサー)の雑種メスと、santomeaとtan周辺領域を欠失しているmelanogasterの雑種メスとで、着色にほとんど違いが見られない、つまり、melanogasterのtanは、santomeaの薄い体色をもたらしている原因遺伝子座を相補しないように見える、ということです。

さて、Jeong et al.と大いに矛盾する結果に見えますが、これをどう解釈するのが正しいのでしょうか?著者らは、Jeong et al.は遺伝子導入で形質がレスキューされているとしているが、それは酵素を過剰発現しているから色素ができたに過ぎず、厳密には原因遺伝子座をレスキューしているとは言えない、と主張しています。この主張は本当に妥当なものでしょうか?
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2010年04月04日

The evolution of gene regulation underlies a morphological difference between two Drosophila sister species.

The evolution of gene regulation underlies a morphological difference between two Drosophila sister species.
Jeong S, Rebeiz M, Andolfatto P, Werner T, True J, Carroll SB.
Cell. 2008 Mar 7;132(5):783-93.

D.yakuba-D.santomeaの体色の話を連続して書こうと思っていたのですが、長く中断してしまいました。

さて、Carbone et al. 2005によって、いくつかのQTLが体色の違いをもたらしていることがわかったのですが、そのうち、オスでもっとも効果の大きいQTLの正体はtanという遺伝子のcis制御領域であったというのがこの論文の主旨です。

yakuba、santomeaおよび両者の雑種を用いて体色関連遺伝子のin situを行い、tanの発現が変わっている事を見つけました。tanとは、最近クローニングされた、メラニン合成系の酵素遺伝子の一つです。そしてyakuba由来のX染色体を持つオスでは、yakuba様の発現パターン(腹部末端で強い)を示す事から、原因となる遺伝的変異はX染色体上にあると考えられました。tan自体もX染色体上にあり、またCarbone et al. 2000でもtan遺伝子近傍にQTLがあることから、この時点で、tanのcis領域が原因である事が強く疑われます。

tan近傍のゲノム領域をEGFPにつなぎレポーターアッセイをすることで、腹部末端での発現をもたらすエンハンサーが同定されました。このエンハンサーとtan遺伝子全体を含む領域を、pエレメントでsantomeaに導入すると、腹部末端に着色が見られ、yakubaに近い表現型になりました(完全ではありません)。

さらに、santomeaでは、tanの腹部末端エンハンサーが機能を失っているのですが、その機能欠失は、santomeaの地域系統ごとに独立して何度か(おそらく3度)起こっているようです。というのは、系統により異なった塩基に欠失が見られ、そのいずれでも、エンハンサー機能が失われているからです。

このように、形質を良く見た上で、いきなりcandidate geneで正解を当ててしまうのがC研の真骨頂です。いまだにQTLの解像度には限界があり、普通は数百遺伝子を含む領域くらいにしか絞り込めないようで、そこから具体的な変異にまでたどり着くには何らかの工夫が必要なようです。そこでどういう工夫をするかが研究者の好みの現れるところで、うちのボスはいきなり池に手を突っ込んで鯉をつかみ取るような荒技を好みます。
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2009年12月12日

Quantitative trait loci affecting the difference in pigmentation between Drosophila yakuba and D. santomea.

Quantitative trait loci affecting the difference in pigmentation between Drosophila yakuba and D. santomea.
Carbone MA, Llopart A, deAngelis M, Coyne JA, Mackay TF.
Genetics. 2005 Sep;171(1):211-25. Epub 2005 Jun 21.

Drosophila santomeaとyakubaは交配できるため、体色の違いをもたらしている変異を、QTLマッピングの手法で染色体上に位置づけることができます。32のSNPsマーカーを用いて、といってもPCR産物を制限酵素で切断して確認するというローテクですが、とにかく染色体全域をカバーするようにマーカーを設定するのは大変だったでしょう。(当時はまだyakubaのゲノムは公開されていませんでした。)

結果、オスとメスで効果は違うものの、体色の違いをもたらしている4つの主要なQTLが同定されました。しかし、それぞれのQTLの近傍には膨大な数の遺伝子があるため、どの遺伝子領域がQTLの実体であるかは、この時点では不明でした。
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2009年12月11日

Evolutionary novelties in islands: Drosophila santomea, a new melanogaster sister species from São Tomé.

Evolutionary novelties in islands: Drosophila santomea, a new melanogaster sister species from São Tomé.
D Lachaise, M Harry, M Solignac, F Lemeunier, V Bénassi, and M L Cariou
Proc Biol Sci. 2000 August 7; 267(1452): 1487–1495.

この論文により、モデル生物であるキイロショウジョウバエDrosophila melanogasterに近い数種で構成するmelanogaster subgroupに、新しいメンバーであるDrosophila santomeaが加わりました。

アフリカ大陸の西側にある島、Sao Tomeの、標高が高い場所のみに生息するsantomeaに最も近縁なのは、yakubaという種で、こちらはアフリカ大陸に広く分布しています。これらは交配可能な程度に近縁ですが、分子系統樹では明瞭に分かれます。最も目につく形態上の違いは、yakubaが他の近縁種とよく似た体色(メスは黄色と黒の縞模様、オスはそれに加えて腹部の後端が黒い)であるのに対し、santomeaは黒色の色素がほとんど見られず、黄色一色に見える腹部を持つ、ということです。

明瞭な表現型を持つ姉妹種が見つかり、かつモデル生物にもごく近縁であるので、表現型の進化を解析するのに最高の系となりえます。実際にこの発見をきっかけに、多くの重要な論文が書かれることになります。
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2009年11月12日

Is genetic evolution predictable?

Is genetic evolution predictable?
Stern DL, Orgogozo V.
Science. 2009 Feb 6;323(5915):746-51.

またプリンストンからのレヴュー。昨年Evolutionに出たものと似ていますが、少し別の例も出して、形質の進化を引き起こした具体的な遺伝的変異をどのように予測するか、について述べています。

こういうメタ解析的なことは最近の彼らの得意とするところで、よく事例をこれだけ集めるなと感心するばかりですが、例えば形態の進化において、種間の違いはcisの変化による場合が多く、種内や家畜化、栽培化の場合はタンパク質のコード領域にnull mutationが入っている場合が多い、というのはなるほどと思いました。

null mutationによってタンパク機能が失われても、ローカルな集団では環境次第で特に問題なく生存してしまうけれど、そのタンパク機能が再び戻ってくることはないわけで、環境適応への柔軟性を失っていると言えるでしょう。このようなローカルな進化には、ドリフトの効果が強く出るわけで、集団遺伝学の視点が欠かせない、と。

近年、彼らは集団遺伝学とEvo-Devoを融合させようという試みをしていると聞いています。関連する書籍も準備している模様です(polyphenismさんによる紹介にリンク)。なぜ集団遺伝学なのかよくわからなかったのですが、このレヴューを読んで、彼らの考えが少しだけわかりました。(ちなみに、我々のボスは集団遺伝学をあまり評価していません。派手好きだからでしょうか。このあたりが、緻密なDLSさんとの大きな違いだと思います。)
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2009年11月10日

Deep homology and the origins of evolutionary novelty.

Deep homology and the origins of evolutionary novelty.
Shubin N, Tabin C, Carroll S.
Nature. 2009 Feb 12;457(7231):818-23.

仲良し3人組で、「またなんかやろうぜ」という企画で書いたレビューだそうです。同じ3人で97年にもレビューがあるのですが、それを踏まえて、ダーウィンイヤーの企画として現代版に仕立てたとのことです。筆頭のShubin氏は、ヒトのなかの魚、魚のなかのヒトの著者でもあり、エボデボ界のリーダーのひとりと言えるでしょう。Tabin氏も、魚類やダーウィンフィンチなど幅広い材料を用いてすばらしい仕事を続けている方です。

このレビューの主眼は、Deep homologyという概念を、最近のEvo-Devoの成果を取り入れた上で再考するというものです。概念自体は、97年のレビューで提唱していたものですが、さらに事例を積み上げようということです。

例として挙げられているのは、後生動物の眼、脊椎動物の鰭と脚、甲虫の角、です。個別にどのような議論がされているのかは、本文をご覧下さい。いずれも、古典的な定義では相同と呼べない構造について、遺伝子発現の類似性を示します。さらにはその遺伝子発現は祖先を共有するらしいこと、そして、構造からは相同性を追跡できないほどに時間が経過した器官どうしに、メカニズムレベルでの「相同性らしきもの」を見出し、このような状況を指し示す用語としての”Deep Homology”を再び提唱しています。

ちなみに、97年の論文はこちら。
Fossils, genes and the evolution of animal limbs.
Shubin N, Tabin C, Carroll S.
Nature. 1997 Aug 14;388(6643):639-48.
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2009年11月07日

Real-time DNA sequencing from single polymerase molecules.

Real-time DNA sequencing from single polymerase molecules.
John Eid et al.
Science. 2009 Jan 2;323(5910):133-8. Epub 2008 Nov 20.

こちらも第3世代シーケンサーについてですが、今年の1月に出ていた論文。巷でも期待されているらしいPacific Biosciences社の技術で、ポリメレースを基盤に固定し、蛍光標識したdNTPの取り込みをリアルタイムで見る方法。

製品化にどれだけ近いかはわかりませんが、潜在的には、ひとつのリードが1000 base以上で、読み取り自体は従来の次世代シーケンサーより4桁速いそうです。(いわゆる次世代シーケンサーは、反応と洗いを繰り替えすので、読み取りは超遅く、読み取り部分を大量に並べることで遅さを補っている。)あとはこの方法でも読み取り部分をたくさん並べれば、大量のアウトプットが可能になりそうです。

私が日本に帰る頃には、若手Bで払える金額で、自分の好みの昆虫のゲノムを受託で読んでもらえるようになりそうです。本気で期待しています。ショウジョウバエ120種ゲノムプロジェクトとか、始まりそうな予感も…。
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2009年11月06日

Human Genome Sequencing Using Unchained Base Reads on Self-Assembling DNA Nanoarrays

Human Genome Sequencing Using Unchained Base Reads on Self-Assembling DNA Nanoarray.
Radoje Drmanac et al.
Published Online November 5, 2009
Science DOI: 10.1126/science.1181498

報道で知りました。Science Expressに論文が出ているようです。第3世代シーケンサーの宣伝を兼ねた論文のようですが、コストが低いのがポイントらしく、ヒトゲノムが$4400で読めるようになるというふれ込みです。

DNA断片を増幅してssDNAがボール状にまとまったもの(DNA nanoballs)を作り、これを基盤に固着させたうえで、ラーゲーションベースの方法で、ボールひとつにつき62-70 baseを読めるとのことです。

Complete Genomicsというベンチャー企業からの論文ですので、おそらく近いうちに、パーソナルゲノムのシークエンス、解析サービスでも始めるのでしょう。

ヒト以外の生物でも受けてくれるかはわかりませんが、方法からして、まったくゲノム情報がない生物ではアセンブリが無理かな?もう少し一つのリードが長い方法で、1〜2× くらいで読んでおいて、あとはこの方法で量を稼ぐ、というのがいけそうですがどうでしょうか。
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2009年10月29日

Intraspecific polymorphism to interspecific divergence: genetics of pigmentation in Drosophila

Intraspecific polymorphism to interspecific divergence: genetics of pigmentation in Drosophila
Patricia J. Wittkopp, Emma E. Stewart, Lisa L. Arnold, Adam H. Neidert, Belinda K. Haerum, Elizabeth M. Thompson, Saleh Akhras, Gabriel Smith-Winberry, Laura Shefner
Science 23 October 2009:
Vol. 326. no. 5952, pp. 540 - 544

筆頭著者はC研の先輩で、現在はミシガン大学で独立されている方です。北米のショウジョウバエ、Drosophila americananovamexicanaは、姉妹種でありながら体色が大きく異なっていることが知られていました。americanaが黒、novamexicanaが黄色です。先行研究で、いくつかの遺伝子座がこの違いに関わっていることが推定されていましたが、具体的な遺伝子座にまでは落とせていませんでした。

今回、著者たちはintrogression(この場合の適切な訳語は浸透性交雑でOKでしょうか)によって、体色に違いをもたらす遺伝子座をマッピングし、それがebonytanという、キイロショウジョウバエでもよく知られた体色関連遺伝子に強く連鎖していることを示しています(つまりこれらの遺伝子そのものが正体である可能性が高い)。

ebony近傍は逆位があるため、さらに詳細なマッピングは困難なので、ここでtanに解析を絞り、tanの第1イントロン近傍にまで絞り込みました。piggyBacを用いてamericanatan遺伝子座をnovamexicanaへ導入すると、実際に体色が濃くなるとのこと。

実はamericanaには集団中に体色の多型があり西に行くに従って体色が薄くなる傾向があります。そこで由来の異なった複数の系統を調べてみると、novamexicanaのalleleに酷似したものが見つかりました。つまり、novamexicanaの薄い体色は、americanaの集団中に元々存在していた、体色を薄くするalleleを創始者効果で拾い上げたものか、あるいはnovamexicanaのalleleが遺伝子浸透によってamericanaに広まったか、いずれにしろ、種内多型と種間多型をもたらしているalleleが同一のものだった、というのがこの論文のうりのようです。

テクニカルな面でも、pyrosequenceを使ったり、melanogasterではない種で遺伝子導入をしたり、結構攻めているという印象です。
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2009年10月20日

Novel TCF-binding sites specify transcriptional repression by Wnt signalling.

Novel TCF-binding sites specify transcriptional repression by Wnt signalling.
Blauwkamp TA, Chang MV, Cadigan KM.
EMBO J. 2008 May 21;27(10):1436-46. Epub 2008 Apr 17.

昨日の続きです。TCFは別のドメインを介して全く別の配列(AGAWAW)にも結合して、Winglessシグナリング存在下では転写抑制に働くことも報告されているようです。古典的なTCFの働きとは全く逆ですが、このシステムはWinglessシグナリングで活性化する遺伝子と抑制する遺伝子を最も合理的に制御する方法には違いないでしょう。

このように、単一の転写因子が、結合する配列によって転写促進をしたり抑制したりという例は、私は知らないのですが、何か他にもあるのでしょうか?

TCFは相当にファンキーな転写因子のようですが、あるいは、よく調べられているから色々な機能がわかってきただけで、他の多くの転写因子も、多かれ少なかれこのような複雑な機能を持っているのかもしれません。cis領域の配列から、上流の転写因子をたどれるようになるのが夢ですが、いつかそういう時が来るのでしょうか。ひたすら事例を積み上げるしか無いのか、なにか革新的なアルゴリズムで解けるようになるのか。
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2009年10月19日

Activation of wingless targets requires bipartite recognition of DNA by TCF

Activation of wingless targets requires bipartite recognition of DNA by TCF
Chang MV, Chang JL, Gangopadhyay A, Shearer A, Cadigan KM.
Curr Biol. 2008 Dec 9;18(23):1877-81.

Winglessのシグナリングの転写因子であるTCFがDNAに結合する際に、本命の結合サイトの他に、すぐそばのHelperと呼ばれるサイトも必要としていることを示した論文。

まったくノーマークだった論文ですが、実は自分にとって重要な内容を含んでいます。Winglessのターゲット遺伝子の一つであるnaked cuticle (nkd)のcis制御領域のうち、IntEと呼ばれるエンハンサーに、10bpずつ変異を入れたバージョンを沢山作ってレポーターの発現を比較し、従来から知られているTCF結合モチーフ(SSTTTGW)に加えて、新たなモチーフ(GCCGCCA)を発見、Helperと名付けました。

人工的に構成したコンストラクトをルシフェラーゼアッセイで試してみると、Helperのみでは転写活性が低いけれど、本命のTCF結合モチーフと組み合わせると非常に高い活性を示すことがわかりました。

他のWinglessターゲット遺伝子も調べてみると、Notum, sloppy pairedでもHelperモチーフがあり、さらにUltrabithoraxやeven skippedでもモチーフによく似たサイトがあるとのこと。さらにこれまでWinglessシグナリングに応答するエレメントが知られていなかった遺伝子についても調べ、ladybird lateとpxbという遺伝子についても、cis領域中にTCF結合モチーフとHelperが両方存在し、TCF結合モチーフかHelperのいずれかをつぶすと転写活性が大幅に低下することを示しています。

そして、TCF結合サイトへの結合はHMGドメインが、Helperへの結合はCクランプと呼ばれる領域が担っているとのこと。

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2009年10月09日

Some fly sensory organs are gliogenic and require glide/gcm in a precursor that divides symmetrically and produces glial cells.

Some fly sensory organs are gliogenic and require glide/gcm in a precursor that divides symmetrically and produces glial cells.
Development. 2000 Sep;127(17):3735-43.
Van De Bor V, Walther R, Giangrande A.

怪しい論文を紹介した効果か、アクセスが増えているので、調子に乗って連続投稿です。こんどはまともな論文です。

研究は思ってもみない方向に行くもので、最近私は神経の勉強をするはめになっています。ハエの翅には、鐘状感覚子(campaniform sensilla)という小さいドーム型の器官があり、飛行中の翅の振動をモニターしていると言われています。外見から見ると、どの鐘状感覚子も似ているのですが、その発生過程をみると、異なった二つの発生様式(neurogenic, gliogenic)があるとのこと。

この論文では、鐘状感覚子の発生過程を丁寧に見て、感覚器前駆細胞から、ニューロン、グリア、その他の細胞が分化する様子を記述しています。

私にとって重要だったのは、L3と呼ばれる翅脈に一列に並んでいる鐘状感覚子の由来が、glionenicとneurogenic、交互に並んでいること、なかでもneurogenicな感覚子は、2つのneuronからなっていることです。これが、私のやっている翅に水玉模様のあるハエでも同様か、模様を形成するシグナルがどの細胞から出ているか、に興味を持っています。
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2009年10月08日

Caterpillars evolved from onychophorans by hybridogenesis

Caterpillars evolved from onychophorans by hybridogenesis
Williamson DI.
Proc Natl Acad Sci U S A. 2009 Aug 28. [Epub ahead of print]

タイトルを見ただけで絶句してしまいました。チョウの幼虫は、昆虫の成虫とは起源が別で、カギムシなどの別の動物との交雑によって取り込まれた形質だ、という仮説。もう仮説と呼ぶのが不適切なぐらいの超珍説です。エイプリルフール特集かと思ったけどそうではないし、まじめに書いたのだとすればかなりエキセントリックな著者なのでしょう。

内容もずさんで、笑いつつも悲しくなってくるほどの代物です。どうやってPNASに載ったかというと、いわゆる"Communicated by ~"という枠で、要はアカデミーの会員のコネで通したとのこと(なお、この枠は、もうすぐ無くなる予定。)そしてそのアカデミー会員は、…やっぱりあの方でした。エキセントリックな方たち同士、仲が良いようです。

この論文をどのように読めば良いかは、以下の記事によくまとめられていると思います。PNASに掲載されるまでに、7つのジャーナルにリジェクトされたとか。
“Bigwig” ushered “nonsense” paper into top journal, say scientists
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2009年07月06日

Genome-wide analysis of Notch signalling in Drosophila by transgenic RNAi.

Genome-wide analysis of Notch signalling in Drosophila by transgenic RNAi.
Mummery-Widmer JL, Yamazaki M, Stoeger T, Novatchkova M, Bhalerao S, Chen D, Dietzl G, Dickson BJ, Knoblich JA.
Nature. 2009 Apr 23;458(7241):987-92. Epub 2009 Apr 12.

Notchシグナリングに関する因子のスクリーニングを、ゲノムワイドなRNAi系統コレクションも用いて行った…という論文で、すでに丹羽さんのところでも紹介されていますし、Notchシグナリングの役者はまだまだ沢山あるってことと、こりゃやる気になれば何にでも使える方法ですよ〜という主要なメッセージはOKだと思います。

私が気になっているのは、スクリーニングの「外道」の部分で、ノックダウンにより体色に異常を起こす遺伝子が350くらい見つかっているということです。Supplementary Informationに少し詳細が載っているので、ちょっといくつかの遺伝子に当たってみましたが、これまで「機能未知」とされてきたものが多いようです。pigmentationの研究者にとって、宝の山かも。
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2009年03月23日

Distinct developmental mechanisms underlie the evolutionary diversification of Drosophila sex combs.

キイロショウジョウバエとその近縁グループにおいて、オスの特徴であるsex combの形態の特徴と、その形成メカニズムが、複数回独立に進化しているのでは?という可能性を示した論文。

Distinct developmental mechanisms underlie the evolutionary diversification of Drosophila sex combs.
Tanaka K, Barmina O, Kopp A.
Proc Natl Acad Sci U S A. 2009 Mar 2. [Epub ahead of print]

sex comb (性櫛) は、キイロショウジョウバエに近いグループのオスのみにみられる特徴で、前脚のフ節にくっついているように見える、黒い櫛状の器官です。種間でバリエーションがあり、縦長のもの(longitudinal)と横向きにちょこっとついているもの(transverse)があります。その発生過程を見てみると、縦長のもののなかに、いきなり縦長に配列した前駆体として形成されるタイプ(Pre-specified)と、横向きに作られた前駆細胞群が、表皮もろとも90℃回転して縦長に配列するタイプ(Rotating)がみとめられました。

さらにこれらは、系統樹上にのせてみると、ばらばらに分布していて、ベイズ法によって (oriental + montiumの) 祖先の形質を推定すると、transverse 45%、rotating 15%、pre-specified 40%と、どの可能性もありえるような結果です。つまりいずれのシナリオが正しいとしても、これらの発生形式の間でのスイッチが複数回独立に起きているであろうという結論です。

ただ、rotatingとtransverseの中間というか、ほどほどの長さのsex combが斜めについている種もいるようなので (bipectinataとかsuzukiiとか)、これらは連続的に捉えることが可能で、pre-specifiedのみが、とても長いsex combを作る場合に起きた特殊化なのかなと思いました。そう考えると、ficusphilaとmontium両グループでこの特殊化が起きて、のこりは長くなったり短くなったり、長いと脚の横幅に収まらなくなるのでちょっと斜め方向に回転したり、というイメージです。
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2009年03月22日

Pigment pattern in jaguar/obelix zebrafish is caused by a Kir7.1 mutation: implications for the regulation of melanosome movement.

ゼブラフィッシュの模様の変異体の解析。動物の模様の理解にとても重要な仕事だと思いますが、原因遺伝子は少し意外なもの。

Pigment pattern in jaguar/obelix zebrafish is caused by a Kir7.1 mutation: implications for the regulation of melanosome movement.
Iwashita M, Watanabe M, Ishii M, Chen T, Johnson SL, Kurachi Y, Okada N, Kondo S.
PLoS Genet. 2006 Nov 24;2(11):e197.

ゼブラフィッシュには色々な模様の変異体があるらしく、jagur/obelixというのは縞模様が幅広くなったり、とぎれとぎれになってしまう変異です。この論文は、その原因遺伝子を特定した、という仕事で、大変興味深く読ませてもらいました。Kir7.1というカリウムチャネルの遺伝子であったとのこと。

ちゃんとレスキューの実験も効いているし、電気生理学的な方法で、変異体はチャネルがおかしくなっていることも示している。じゃあこのタンパクに変異があるとどうして模様が乱れるでしょうか?色素細胞間の連絡がうまく取れなくなるからではないかと考察されていますが、たぶんそうなのでしょう。だとすると、反応拡散モデルとの関係はどうなってしまうのでしょうか。遺伝子のmolecular functionがわかっても、表現型が理解できるとは限らない、ということを改めて考えさせられました。しかしなんといっても、この仕事が、ゼブラの模様形成を理解するために重要な一歩であるのは間違いないでしょう。

同様に、以下の論文ではleopardという、サケ科魚類を思わせるようなスポットパターンをしめす変異体の解析をし、原因遺伝子はconnexin41.8という、細胞間のギャップ結合に関連するものであることを明らかにしています。やっぱり色素細胞の移動と配置がキーポイントになっているような気がします。

Danio is caused by mutation in the zebrafish connexin41.8 gene.
Watanabe M, Iwashita M, Ishii M, Kurachi Y, Kawakami A, Kondo S, Okada N.
EMBO Rep. 2006 Sep;7(9):893-7. Epub 2006 Jul 14.
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2009年03月20日

Theoretical analysis of mechanisms that generate the pigmentation pattern of animals.

反応拡散モデルによって動物の模様をどこまで説明できるか?について論じたレビュー。面白いです。

Theoretical analysis of mechanisms that generate the pigmentation pattern of animals.
Kondo S, Shirota H.
Semin Cell Dev Biol. 2009 Feb;20(1):82-9. Epub 2008 Oct 19.

脊椎動物の模様は、やはりだいぶ昆虫の模様と違うようで、体全体を覆うようなパターンがよく見られる気がします。例えば、シマウマとか、ヒョウのような。非常に大きな範囲にわたる模様をどのように制御しているのか、大変興味をそそられます。ショウジョウバエの場合だと、転写因子か何かのプレパターンがあって、その大まかな下書きにそって表皮の着色が起こるのですが、脊椎動物はもうワンステップ、複雑になっているような印象です。

このレビューでは、反応拡散モデル(チューリングモデルとも言われる、発生学の教科書にも良く出てくるアレです)によって、どこまで動物の模様が説明できるのか、そして、現実のメカニズムとどのように対応するのか、ということについて概説されています。数式をほとんど使わず、言葉によって説明してくれているので、私のような数学が不得意なものでもそれなりに理解できます。基本となる水玉模様、入り組んだ縞模様などに加えて、モデルにちょっとした条件を付加することで、ヒョウ柄や渦巻き状の模様なども描くことができるそうです。ジンベイザメの模様もできるのにはびっくり。

では反応拡散モデルが現実にはどのような分子に対応するのか?教科書などでは、もっとも考えやすい例として、拡散速度の異なる二つのモルフォゲン分子を想定していると思いますが、実際にはどうなのか?近年、ゼブラフィッシュの変異体の解析により、そのあたりが一気に解明されると期待されていましたが…。続きはまた、変異体解析の論文紹介として書きたいと思います。私は、数年前に進化学会でこの話のさわりを聞いて以来、興味を持っていたのですが、いつのまにか重要な論文がいくつも出ていたのでした。
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