生物学・科学に関する雑感。

書籍の紹介が中心です


2013年05月26日

Genome engineering of Drosophila with the CRISPR RNA-guided Cas9 nuclease.

Genome engineering of Drosophila with the CRISPR RNA-guided Cas9 nuclease.
Scott J. Gratz, Alexander M. Cummings, Jennifer N. Nguyen, Danielle C. Hamm, Laura K. Donohue, Melissa M. Harrison, Jill Wildonger and Kate M. O'Connor-Giles
Genetics Early Online May 24, 2013, doi: 10.1534/genetics.113.152710

そろそろ世界のどこかから出るだろうと思っていた、CRISPRのハエへの応用、まさかまさか、うちの隣のラボからでました。インジェクションのやり方を教えたのはうちのテクニシャンだし…。いつのまにやっていたのかという感じ。こういう仕事はやると決めたらスピードが大事ですね。

CRISPRというのはバクテリアから見つかっている獲得免疫の機構らしく、ウィルスのゲノムの一部を自分のゲノムに取り込んで、次に侵入があったときに、それを鋳型にウィルスゲノムを切断することで防御するもののようです。このシステムを応用して、ゲノムの特定の場所を切断、場合によってはそれを相同な配列と組み替えさせることでゲノム改変ができる、というアイディアで、すでに哺乳類の培養細胞や酵母では成功例があったので、ハエで使われるのも時間の問題でした。

この方法のメリットは、とにかく簡単で速いということだと思います。ターゲットの制約は、GGを含む配列であるということくらいです(ただし、まだyellowとrosyでしかテストされていないので、すべての遺伝子やその近傍で同じように働く保証はない)。とにかくゲノム改変のためには何らかの方法で特異性を持たせなければなりません。TALENやZFNは、DNA配列を認識するタンパク質の配列をデザインする必要があるのに対し、CRISPRで使われるRNAの配列というのは最も直接的で単純なので、外注する必要もないし時間もかからないので、普及のスピードは速いと予想します。

5/29 キーワードを追記します。CRISPR, CRISPE/Cas9, ショウジョウバエ, Drosophila, Zinc finger nuclease
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2013年01月21日

Wolbachia-mediated persistence of mtDNA from a potentially extinct species.

Wolbachia-mediated persistence of mtDNA from a potentially extinct species.
Dyer KA, Burke C, Jaenike J.
Mol Ecol. 2011 Jul;20(13):2805-17. doi: 10.1111/j.1365-294X.2011.05128.x. Epub 2011 May 20.

自分の研究しているショウジョウバエのグループで見つかった興味深い状況。Drosophila quinariaのミトコンドリアDNAには二つのタイプがあり、そのうちの一つは、すでに絶滅したらしい近縁種に由来し、Wolbachia(片利共生細菌)とともにquinariaの集団に入り込んできたものらしい。絶滅した種のDNAが多種から見つかるというのは、ちょっとロマンチックです。
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2012年08月27日

A comparative analysis of the evolution of imperfect mimicry.

A comparative analysis of the evolution of imperfect mimicry.
Penney HD, Hassall C, Skevington JH, Abbott KR, Sherratt TN.
Nature. 2012 Mar 21;483(7390):461-4. doi: 10.1038/nature10961.

擬態に関する話。ハナアブは毒針を持たないのに、ハチに擬態することで鳥による捕食から逃れていると言われています。しかし、一部の種はハチに良く似ているのに、ちょっとしか似ていない種もいます。似ている方が捕食されにくいのなら、なぜちょっとしか似ていない種がいるのでしょうか。

これに関する仮説はいくつもあって、複数のモデルの中間に似せているからだとか、ヒトが見て似ていなくても鳥から見たら似ているだとか言われてきました。しかしこれらの仮説は、この論文の形態計測/ヒトによる類似性の評価/ハトによる類似性の評価のデータによって明確に否定されています。また、「血縁淘汰によって似すぎた擬態は不利になる」という説も、その仮説から予想されるはずの、個体数の多さと擬態の完成度の(負の)相関が見られなかったことにより、退けられています。

結局、ハナアブの種ごとの体サイズと擬態の完成度に正の相関が見られたことにより(系統関係を考慮した補正をしてもしなくても相関あり)、小さい種では捕食圧が低いために擬態のメリットが低いことが、擬態の不完全さの原因ではないかと結論しています。

もともと他の仮説は根拠が弱かったと思うので、この結論は妥当だと思います。しかし小さい種で擬態のメリットが低くても、よりモデルに似ていた方が捕食圧はさらに下がるわけですから、そうなっていないということは逆方向の淘汰圧…つまり擬態することに何かデメリットがあるはずです。それが、例えば、色素をつくるためのコストなのか、配偶相手の認識に支障がでるのか、その拘束の正体に興味があります。
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2012年07月24日

Diversification of complex butterfly wing patterns by repeated regulatory evolution of a Wnt ligand.

Diversification of complex butterfly wing patterns by repeated regulatory evolution of a Wnt ligand.
Martin A, Papa R, Nadeau NJ, Hill RI, Counterman BA, Halder G, Jiggins CD, Kronforst MR, Long AD, McMillan WO, Reed RD.
Proc Natl Acad Sci U S A. 2012 Jul 16. [Epub ahead of print]

ミューラー型擬態で有名なドクチョウの翅の黒い部分は、どうやらWntAによって規定されていることを示した論文。同種の異なったモルフを利用したマッピングでWntA領域に絞り込み、in situで翅原基でのWntAの発現パターンが成虫の着色と一致することを確かめた上で、Wnt系リガンドの拡散を促進する薬剤であるヘパリンの投与によって、模様の黒い部分が拡大することを示しています。現在の技術を使う限りでは実験は完璧だと思います。
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2012年06月28日

On some objections to the paranotal theory on the origin of the insect wings.

On some objections to the paranotal theory on the origin of the insect wings.
J. Alberto Quartau (1985)
Boletim da Sociedade Portuguesa de Entomologia, suplemento No1
Actas do II Congresso Ibérico de Entomologia vol II. 359-371.

ポルトガルの昆虫学者Quartauによる昆虫の翅の起源に関するレビューで、内容としてはQuartau (1986)と重複する部分が多いのですが、こちらのほうが簡潔です。この原稿はサバティカル中に行われた研究を、学会発表用にまとめたもののようです。Paranotal theoryの側に立ち、おおむね常識的でしっかりとしたレビューです。
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2012年04月01日

Evolution of shape by multiple regulatory changes to a growth gene.

Evolution of shape by multiple regulatory changes to a growth gene.
Loehlin DW, Werren JH.
Science. 2012 Feb 24;335(6071):943-7.

Nasonia(ヤドリコバチ)のオスの翅の大きさは近縁種の間でかなり異なっています。正攻法のQTLマッピングとイントログレッションにより、その違いを引き起こしている遺伝子とその制御領域まで特定したという仕事。注目したのがオスの形質で、オスは一倍体なので解析が単純であること、質の良いゲノム配列があること、種間交配がしやすいこと(もともとの生殖隔離がWolbachiaによるものなので、抗生物質処理一発で隔離が解消できる)など、有利な点が多くありますが、それにしてもとにかくマッピングの解像度がすごい。種間の形態形質で、ここまでの解像度の研究は今までなかったのではないかと思います。ちなみにこの仕事は筆頭著者のD論の一部で、彼はポスドクとしてうちの研究室に来ました。
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2012年02月03日

A toolkit for high-throughput, cross-species gene engineering in Drosophila.

A toolkit for high-throughput, cross-species gene engineering in Drosophila.
Ejsmont RK, Sarov M, Winkler S, Lipinski KA, Tomancak P.
Nat Methods. 2009 Jun;6(6):435-7.

Fosmidからハエに遺伝子を移す方法を勉強中。BACよりも扱えるサイズが小さいけれど、どのみち100kbくらいの大きいインサートはハエに入れる時の効率がとても低いそうなので、現実的にはFosmidで30kbくらいを扱うのが便利なのかもしれないと思います。
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2011年11月17日

High-resolution melting curve analysis for rapid detection of mutations in a Medaka TILLING library.

High-resolution melting curve analysis for rapid detection of mutations in a Medaka TILLING library.
Ishikawa T, Kamei Y, Otozai S, Kim J, Sato A, Kuwahara Y, Tanaka M, Deguchi T, Inohara H, Tsujimura T, Todo T.
BMC Mol Biol. 2010 Sep 15;11:70.

メダカのTILLINGに、融解曲線解析によるスクリーニングを組み合わせたもの。この方法により、スクリーニング自体は非常に簡便かつ高速になっていると思います。分子生物学の部分に関しては、ちょっとこれ以上の高速化は思いつかないくらいです。

Non-modelのハエは、状況がメダカに似ていると思うので(純系は作れる、バランサーはなし、世代時間は数十日、ゲノム配列はある、トランスポゾンは入る)、この方法を使えないかと思っています。違いは、ハエは系統を凍結保存できないので、変異が入った染色体が失われないように維持するのが難しい点でしょうか。
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2011年11月16日

Target-selected mutant screen by TILLING in Drosophila.

Target-selected mutant screen by TILLING in Drosophila.
Winkler S, Schwabedissen A, Backasch D, Bökel C, Seidel C, Bönisch S, Fürthauer M, Kuhrs A, Cobreros L, Brand M, González-Gaitán M.
Genome Res. 2005 May;15(5):718-23.

TILLINGをショウジョウバエに応用した例のひとつ。

彼らは、Cel-Iという、DNAのヘテロ2本鎖を切断する酵素(セロリに由来するらしい)を使い、ヘテロ接合を検出しています。ハエの場合は、種子や精子を凍結保存したりはできないので、変異を入れたライブラリーをいかに保持するかがポイントですが、彼らはバランサー染色体と、熱ショックでアポトーシスを誘導できるhs-hidを使って、比較的簡便に系統を維持する方法を用いています。しかしバランサーを使うと、多くのSNPsを持ち込むことにもなり、それをどのように突然変異と見分けるかが重要になります。Cel-Iを用いた方法なら、ゲル上で突然変異を含むすべてのSNPsを可視化できます。とはいえ、今の時代だったら、すべてキャピラリーシークエンスしたほうが簡便ですかね。

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2011年11月15日

Targeted screening for induced mutations.

Targeted screening for induced mutations.
McCallum CM, Comai L, Greene EA, Henikoff S.
Nat Biotechnol. 2000 Apr;18(4):455-7.

化学物質などでランダムに起こした突然変異を、特定のゲノム領域のみに限定してスクリーニングすることで、逆遺伝学に近い効果を得る方法。TILLING (Targeting Induced Local Lesions IN Genomes)と呼ぶそうです。この論文が原法で、DHPLCを使ってヘテロ接合を検出していますが、その後、さらに様々なスクリーニング法が開発され、多くの栽培植物やモデル生物に応用されています。明日以降に続きます。
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2011年11月05日

Phosphorylation of Mad Controls Competition Between Wingless and BMP Signaling.

Phosphorylation of Mad Controls Competition Between Wingless and BMP Signaling.
Eivers E, Demagny H, Choi RH, De Robertis EM.
Sci Signal. 2011 Oct 11;4(194). pii: ra68. doi: 10.1126/scisignal.2002034.

Scienceの数少ない姉妹紙であるScience Signalingに掲載された論文。UWでは購読していないので直接は読めないのですが、図書館に複写依頼をしたらその日のうちにpdfがもらえました。紙媒体の雑誌であっても、複写以来をすると電子複写でpdfを送ってくれるのでかなり高速です。このシステムはすばらしい。

この論文は、BMPシグナリングの転写因子であるMad (Mothers against dpp)が、実はWntシグナリングにも関与しているという話です。Madがリン酸化されるとBMP、リン酸化されないとWntの方で働くということで、BMPとWntが拮抗的に働くことが説明できるというものです。これ自体は、けっこう衝撃的なモデルです。

しかし著者らも認めているように、Madの過剰発現はWntシグナリングの機能喪失に似た表現型を示すというデータ(以下の論文)と矛盾するし、何かまだ見落とされている因子があるような気がします。続報に大いに期待しています。

Inhibition of Drosophila Wg signaling involves competition between Mad and Armadillo/beta-catenin for dTcf binding.
Zeng YA, Rahnama M, Wang S, Lee W, Verheyen EM.
PLoS One. 2008;3(12):e3893. Epub 2008 Dec 9.
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2011年10月15日

The treehopper's helmet is not homologous with wings (Hemiptera: Membracidae)

The treehopper's helmet is not homologous with wings (Hemiptera: Membracidae)
KAZUNORI YOSHIZAWA
Systematic Entomology
Article first published online: 14 OCT 2011
DOI: 10.1111/j.1365-3113.2011.00606.x

例のツノゼミ論文に対する反論が正式に出ました。元論文には多くの形態学的な解釈ミスがあり、彼らの主張する結論(ツノゼミのヘルメットは翅と相同)は、全く支持されない、という内容です。

私は元論文と今回の反論の両方に多少関わっており、微妙な立場ではありますが、自分の科学的な良心に従って、完全にこちらの反論を支持しています。そもそも昨年の夏、元論文の筆頭著者がマディソンを訪れた際に、このプロジェクトの概要を聞き、データの解釈に関する私の懸念は伝えました。

その時の違和感は主に2つありました。ひとつめは、ヘルメットには関節があり、それによって付属肢の定義を満たす、という彼らの見立てが、ヘルメットと翅の相同性を示す証拠のひとつとして挙げられていたことです。付属肢の定義は、既存の付属肢をひとつのカテゴリーにまとめて名付けるためにあり、その由来の同一性を担保するものではありません。付属肢に由来する器官が二次的に関節を失うこともあり得るでしょうし、付属肢の定義に合致する複数の器官が、独立に生じることもあり得るはずです。さらに、そもそもヘルメットの関節と彼らが主張する構造自体が、今回の反論論文により、単に前胸と中胸のあいだの部分である(つまりヘルメットと前胸の間に関節はない)ことが示されています。

もう一つは、ツノゼミの終齢若虫の前胸の側後方には、翅芽と明らかに連続相同に見える張り出しが見られ、一方で、ヘルメットは前胸の中央付近で既に後方に張り出していることです。つまり、翅とヘルメットとでは、形成されている場所が違うのです。彼らは、切片標本に基づいて、ヘルメットの前駆組織は翅と同じ位置で形成され始め、次第に中央に伸びて融合するかのような図を示していますが、これは切片を斜めに切ったからそういう形に見えていることを、今回の反論は示しています。

このように、そもそも形態の解釈に大きな疑問があるので、元論文の後半の、Drosophilaを使った実験は無意味です。実験の前提となる問題提起(翅と相同なヘルメットが前胸に形成されるにあたり、Hoxによる翅形成の抑制メカニズムは保存されているか)がそもそも意味をなさないからです。Natureをはじめとする有名ジャーナルは、EvoDevoの論文に対しても、結論を支持する実験、特に遺伝子の機能解析を要求することが多くなっていますが、それをうまく逆手に取って、あたかも結論を支持する実験を行ったかのように仕上げています。良く読むと、これらの実験の組み立てを含め、論理の運び方がぶっとんでいて、彼らのデータ群は、ひとつの結論を支持するものでないことは明らかだと思います。

今回の反論の著者、吉澤さんのブログもご覧下さい。
http://hexapoda.sblo.jp/
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2011年07月09日

Multiplexed shotgun genotyping for rapid and efficient genetic mapping.

Multiplexed shotgun genotyping for rapid and efficient genetic mapping.
Andolfatto P, Davison D, Erezyilmaz D, Hu TT, Mast J, Sunayama-Morita T, Stern DL.
Genome Res. 2011 Apr;21(4):610-7. Epub 2011 Jan 13.

同じグループからもう一本。読んでみると、確かに技術的に十分に可能で、そういう意味では驚きはないのですが、とにかくものすごい利点の多い次世代シーケンサーを使ったマッピングの方法です。これを使えばQTLマッピングがものすごい高速でできるうえ、手間も少ないし、レゾルーションが低ければサンプルを増やすのも簡単そうです。

こうなってくると、自分の扱っている種でもやりたいですが、近縁種のどれとも今のところ交配できないので、そこをとにかく乗り越えないと。
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2011年07月07日

Morphological evolution caused by many subtle-effect substitutions in regulatory DNA

Morphological evolution caused by many subtle-effect substitutions in regulatory DNA.
Frankel N, Erezyilmaz DF, McGregor AP, Wang S, Payre F, Stern DL.
Nature. 2011 Jun 29;474(7353):598-603. doi: 10.1038/nature10200.

DS研、最近好調みたいです。例の、Drosophila sechelliaの幼虫の肌がすべすべ(trichomeと呼ばれる微少突起が少ない)なのはいかなる進化的変化によるかという問題で、shavenbabyという転写因子をコードする遺伝子のcis制御領域の中でも、いよいよ、原因となる塩基の変異にまで踏み込んだ内容です。
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2011年05月05日

Body plan innovation in treehoppers through the evolution of an extra wing-like appendage

しばらく休んでいましたが、再開します。

Body plan innovation in treehoppers through the evolution of an extra wing-like appendage
Benjamin Prud’homme, Caroline Minervino, Mélanie Hocine, Jessica D. Cande, Aïcha Aouane, Héloïse D. Dufour, Victoria A. Kassner, Nicolas Gompel
Nature 473, 83–86 (05 May 2011)

さて、ツノゼミのヘルメット(胸部についた飾り)の進化的起源を扱ったこの論文。うちの研究室からも2人、著者に入っていますし、このプロジェクトの進行をそばで見ることができました。昆虫好きの人はよくご存じのように、ツノゼミはその圧倒的な形態的多様性により、多くの昆虫写真家、採集家、ナチュラリストを魅了している一群です。熱帯産のものが有名ですが、ウィスコンシンには一種だけ、とても良く採れる普通種がいるので、それをうまく利用したプロジェクトです。

彼らが示しているのは、ツノゼミのヘルメットは関節を持った前胸の背側付属肢であるということと、発達中のヘルメットは、翅の発生に関連する遺伝子3つ(nub, Dll, hth)の抗体で染まる、ということです。これをもって、ヘルメットは翅と連続相同な器官であり、ツノゼミはnubなどの翅発生関連遺伝子が、前胸のHoxであるScrによる抑制を受けないように進化したためにヘルメットを発達させることができた、という壮大な仮説を述べています。

材料の特性上、できる実験と出来ない実験があるし、苦労もよくわかりますが、やはりデータの積み上げ方、論理構成は少々強引なように思います。しかしライティングが非常にうまいのと、Supplementを含めGompel氏の写真がとても良いので、エンターテインメント性の高い作品に仕上がっていると思います。おそらくどこかからか反論も出てくると思いますが、それを読むのも楽しみですし、再反論も楽しみです。
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2010年07月27日

Evolution of the tan locus contributed to pigment loss in Drosophila santomea: a response to Matute et al.

Evolution of the tan locus contributed to pigment loss in Drosophila santomea: a response to Matute et al.
Rebeiz M, Ramos-Womack M, Jeong S, Andolfatto P, Werner T, True J, Stern DL, Carroll SB.
Cell. 2009 Dec 11;139(6):1189-96.

さて、だいぶ間が空いてしまいましたが、とりあえずはこのシリーズの最後となる論文です。

なお、これまでに、関連するエントリを4つ書いてきました。

Lachaise et al. 2000
腹部に着色の無い種、Drosophila santomeaの発見。
http://hodotermopsis.seesaa.net/article/135297424.html

Carbone et al. 2005
QTL解析により、着色の喪失の原因となった主要なQTLにあたりをつけた。
http://hodotermopsis.seesaa.net/article/135402987.html

Jeong et al. 2008
最大効果QTL近傍にあるtan遺伝子が、QTLの正体である事を示した。
http://hodotermopsis.seesaa.net/article/145571102.html

Matute et al. 2009
melanogasterの突然変異系統とsantomeaの交配から、上記の論文の結果に疑義。
http://hodotermopsis.seesaa.net/article/145659375.html


この論文では、Matute et al.による批判のどこがまちがっているか、完膚なきまでに反論しています。

C研からJeong et al. 2008が出る前から、実はDS研ではsantomea-yakuba問題をQTL解析の精度を高める事により解決しようとしており、C研のCandidate gene approachよりも時間はかかるものの、先入観によるバイアスの無い、実直なデータをとっていたのでした。彼らの手法は、santomeaとyakubaを掛け合わせ、腹部に着色を持つ子孫にさらにsantomeaを掛け合わせ、ずっとこれを繰り返す事により、重要なQTL近傍のみyakuba由来で、その他のゲノム領域はすべてsantomeaという個体を作り出すというものです。

こういう系統をintrogression lineと呼ぶそうですが、これにより、最大効果を持つQTLの場所を29遺伝子を含む領域にまで狭める事に成功し、この領域のほぼ中心に、tan遺伝子が残っています。そして、Matute et al.の調べた、melanogasterでの欠失領域は、ひとつを除いてすべてこの領域の外にあるということがわかりました。つまり、彼らのデータの大部分は、関係のない領域を調べて、表現型に効果がみられないという、いわばあたりまえのネガティブデータだったわけです。

さらに、Matuteらの表現型のデータは、ちょっと計算を操作して、さもtan遺伝子の役割が小さかったかのようにしています。表現型をきちんと比較しようにも、対照群となるべき(体色に関して)野生型のmelanogaster(Basc)とsantomeaの雑種で、これが着色がおこらずにまっ黄色なものですから、melanogaster(tan)とsantomeaの雑種が同じくまっ黄色で、違いが検出しにくいのです。なのに、tanの効果を算出する時の分母には、melanogasterとsantomeaの着色の違いを用いていて、要は割り算の分母を不当に大きなものにすることで、tanの貢献度を不当に小さく算出していたのです。

結論としては、tan遺伝子(のcis制御領域)は、おそらく最大のQTLの正体であり、その変異がsantomeaの腹部の着色の進化に主要な役割を果たしていた、というものです。そして、同じデータでも、その取り扱いにより、人はいかに間違った結論を導くかというケーススタディーとして今回の論争を総括しています。
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2010年07月26日

Phenotypic robustness conferred by apparently redundant transcriptional enhancers.

Phenotypic robustness conferred by apparently redundant transcriptional enhancers.
Frankel N, Davis GK, Vargas D, Wang S, Payre F, Stern DL.
Nature. 2010 Jul 22;466(7305):490-3. Epub 2010 May 30.

DS研から、リダンダントなエンハンサーは表現型のロバストネスを高める働きがある、という論文。

内容はいたってシンプルで、shavenbaby遺伝子から、従来のエンハンサーと重複した働きを持つ新たなエンハンサーを同定し(いわゆるシャドウエンハンサー)、そのエンハンサー領域を欠失させると、通常の生育温度では影響が少ないものの、極端な生育温度だとトライコーム(細かい毛のような突起物)の数が減少することを示しています。

つまり、重複したエンハンサーの機能として、形質のロバストさを担っている、というわけで、まぁこれは別の誰かも言っていたことなのですが、こちらが先に論文になった、というわけで。
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2010年04月05日

Little effect of the tan locus on pigmentation in female hybrids between Drosophila santomea and D. melanogaster.

Little effect of the tan locus on pigmentation in female hybrids between Drosophila santomea and D. melanogaster."
Matute DR, Butler IA, Coyne JA.
Cell. 2009 Dec 11;139(6):1180-8.

さて、Jeong et al. 2008に対して出てきた反論がこの論文です。CellにはMatters Arisingという反論用のセクションがあり、そこに掲載されたものです。以下、私はCarroll研側の人間ですので、この論文に対しては否定的な見方をしていますが、そのあたりを考慮しつつお読みください。興味のある方は、ぜひ原文に当たってみてください。

この論文では、D. melanogasterとD. santomeaが交配可能であることを利用して、melanogasterの染色体欠失系統とsantomeaの交配により、santomeaのtanが機能を失っている事が、本当にsantomeaの腹部着色が薄いことの原因であるかどうかを検討しています。

そして彼らは結論として、tanはほとんど形質の違いに寄与していない、と主張しています。その根拠となっているのは、santomeaとmelanogaster野生型(バランサー)の雑種メスと、santomeaとtan周辺領域を欠失しているmelanogasterの雑種メスとで、着色にほとんど違いが見られない、つまり、melanogasterのtanは、santomeaの薄い体色をもたらしている原因遺伝子座を相補しないように見える、ということです。

さて、Jeong et al.と大いに矛盾する結果に見えますが、これをどう解釈するのが正しいのでしょうか?著者らは、Jeong et al.は遺伝子導入で形質がレスキューされているとしているが、それは酵素を過剰発現しているから色素ができたに過ぎず、厳密には原因遺伝子座をレスキューしているとは言えない、と主張しています。この主張は本当に妥当なものでしょうか?
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2010年04月04日

The evolution of gene regulation underlies a morphological difference between two Drosophila sister species.

The evolution of gene regulation underlies a morphological difference between two Drosophila sister species.
Jeong S, Rebeiz M, Andolfatto P, Werner T, True J, Carroll SB.
Cell. 2008 Mar 7;132(5):783-93.

D.yakuba-D.santomeaの体色の話を連続して書こうと思っていたのですが、長く中断してしまいました。

さて、Carbone et al. 2005によって、いくつかのQTLが体色の違いをもたらしていることがわかったのですが、そのうち、オスでもっとも効果の大きいQTLの正体はtanという遺伝子のcis制御領域であったというのがこの論文の主旨です。

yakuba、santomeaおよび両者の雑種を用いて体色関連遺伝子のin situを行い、tanの発現が変わっている事を見つけました。tanとは、最近クローニングされた、メラニン合成系の酵素遺伝子の一つです。そしてyakuba由来のX染色体を持つオスでは、yakuba様の発現パターン(腹部末端で強い)を示す事から、原因となる遺伝的変異はX染色体上にあると考えられました。tan自体もX染色体上にあり、またCarbone et al. 2000でもtan遺伝子近傍にQTLがあることから、この時点で、tanのcis領域が原因である事が強く疑われます。

tan近傍のゲノム領域をEGFPにつなぎレポーターアッセイをすることで、腹部末端での発現をもたらすエンハンサーが同定されました。このエンハンサーとtan遺伝子全体を含む領域を、pエレメントでsantomeaに導入すると、腹部末端に着色が見られ、yakubaに近い表現型になりました(完全ではありません)。

さらに、santomeaでは、tanの腹部末端エンハンサーが機能を失っているのですが、その機能欠失は、santomeaの地域系統ごとに独立して何度か(おそらく3度)起こっているようです。というのは、系統により異なった塩基に欠失が見られ、そのいずれでも、エンハンサー機能が失われているからです。

このように、形質を良く見た上で、いきなりcandidate geneで正解を当ててしまうのがC研の真骨頂です。いまだにQTLの解像度には限界があり、普通は数百遺伝子を含む領域くらいにしか絞り込めないようで、そこから具体的な変異にまでたどり着くには何らかの工夫が必要なようです。そこでどういう工夫をするかが研究者の好みの現れるところで、うちのボスはいきなり池に手を突っ込んで鯉をつかみ取るような荒技を好みます。
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2009年12月12日

Quantitative trait loci affecting the difference in pigmentation between Drosophila yakuba and D. santomea.

Quantitative trait loci affecting the difference in pigmentation between Drosophila yakuba and D. santomea.
Carbone MA, Llopart A, deAngelis M, Coyne JA, Mackay TF.
Genetics. 2005 Sep;171(1):211-25. Epub 2005 Jun 21.

Drosophila santomeaとyakubaは交配できるため、体色の違いをもたらしている変異を、QTLマッピングの手法で染色体上に位置づけることができます。32のSNPsマーカーを用いて、といってもPCR産物を制限酵素で切断して確認するというローテクですが、とにかく染色体全域をカバーするようにマーカーを設定するのは大変だったでしょう。(当時はまだyakubaのゲノムは公開されていませんでした。)

結果、オスとメスで効果は違うものの、体色の違いをもたらしている4つの主要なQTLが同定されました。しかし、それぞれのQTLの近傍には膨大な数の遺伝子があるため、どの遺伝子領域がQTLの実体であるかは、この時点では不明でした。
posted by シロハラクイナ at 11:17| シカゴ ☀| Comment(0) | TrackBack(0) | 論文 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする