生物学・科学に関する雑感。

現在ウィスコンシン・マディソンに研究留学中


2011年05月05日

Body plan innovation in treehoppers through the evolution of an extra wing-like appendage

しばらく休んでいましたが、再開します。

Body plan innovation in treehoppers through the evolution of an extra wing-like appendage
Benjamin Prud’homme, Caroline Minervino, Mélanie Hocine, Jessica D. Cande, Aïcha Aouane, Héloïse D. Dufour, Victoria A. Kassner, Nicolas Gompel
Nature 473, 83–86 (05 May 2011)

さて、ツノゼミのヘルメット(胸部についた飾り)の進化的起源を扱ったこの論文。うちの研究室からも2人、著者に入っていますし、このプロジェクトの進行をそばで見ることができました。昆虫好きの人はよくご存じのように、ツノゼミはその圧倒的な形態的多様性により、多くの昆虫写真家、採集家、ナチュラリストを魅了している一群です。熱帯産のものが有名ですが、ウィスコンシンには一種だけ、とても良く採れる普通種がいるので、それをうまく利用したプロジェクトです。

彼らが示しているのは、ツノゼミのヘルメットは関節を持った前胸の背側付属肢であるということと、発達中のヘルメットは、翅の発生に関連する遺伝子3つ(nub, Dll, hth)の抗体で染まる、ということです。これをもって、ヘルメットは翅と連続相同な器官であり、ツノゼミはnubなどの翅発生関連遺伝子が、前胸のHoxであるScrによる抑制を受けないように進化したためにヘルメットを発達させることができた、という壮大な仮説を述べています。

材料の特性上、できる実験と出来ない実験があるし、苦労もよくわかりますが、やはりデータの積み上げ方、論理構成は少々強引なように思います。しかしライティングが非常にうまいのと、Supplementを含めGompel氏の写真がとても良いので、エンターテインメント性の高い作品に仕上がっていると思います。おそらくどこかからか反論も出てくると思いますが、それを読むのも楽しみですし、再反論も楽しみです。
posted by シロハラクイナ at 05:43| シカゴ ☀| Comment(7) | TrackBack(0) | 論文 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
おもしろい!でも,Suppl. Fig. 5 の解釈は明らかにおかしいです.
Posted by 茶坊主 at 2011年05月09日 09:46
>茶坊主さん

コメントありがとうございます。やはりそうですか。私から見ても、突っ込みどころ満載で、彼らの発表を聞いた時に直接文句も言ったのですが、あんまり相手にされませんでした(笑)。

ヘルメットの起源に関しては、メインデータの妥当な解釈は、翅の発生に関与する遺伝子が使い回されて、前胸に突起物ができた、ということだと思います。ヘルメットには関節があるから付属肢の定義に合致する、ということと、翅と連続相同だというのは別の話ですが、うまくちょろまかしているという印象です。
Posted by シロハラクイナ at 2011年05月09日 10:32
追加です.

EvoDevo 的な部分は置いといて,形態の解釈は大間違い.Fig.1e で T1 として示されている部分は間違いなく中胸.つまり,helmet joint なるものの存在は怪しく,前胸と中胸の節間膜に過ぎないと思う.
Posted by 茶坊主 at 2011年05月09日 14:11
おっと,お返事見ないまま次のコメント書いてしまった.

> メインデータの妥当な解釈は、翅の発生に関与する遺伝子が使い回されて、前胸に突起物ができた、ということだと思います。

同意します.

Posted by 茶坊主 at 2011年05月09日 14:22
面白く拝見させて頂きました.確かに,解釈は多少問題アリかなと拝見しました.

「相同である」ことと「co-optionしている」こととの線引きは非常に難しいですが,同じ事ではないように感じます.遺伝子発現のパターンだけで結論づけることはおそらくできないでしょうね.
Posted by polyphenism at 2011年05月09日 16:47
>茶坊主さん

さすが形態がわかる方は違いますね。この論文にはかなり致命的な錯誤があるようですが、形態学に詳しくないと、ストーリーに乗っけられてしまって気づかないおそれがありますね。もしよろしければ、どこかに反論を寄せられてはいかがでしょうか?NatureにはBrief Communications Arisingという反論用のセクションがあるようです。あるいは、どこか別の雑誌でも。ナナフシ論文の時も、いくつか反論論文があったと思います。
Posted by シロハラクイナ at 2011年05月10日 03:35
>polyphenismさん

私が指摘したいのはまさにそこで、少なからぬEvoDevo研究のまずい所として、遺伝子発現の共通性(のみ)を相同性の根拠にしていることです。多面発現、co-optionがかなり普通に起こることを考えればナンセンスです。では解剖学的に、付近の器官との配置などから相同かというと、今回のケースはNOです。古典的EvoDevoの最後の徒花かもしれません。(言い過ぎか…)


ちなみに、遺伝子発現は共通しているけれども相同かどうかはわからない状態を指す言葉として、ホモクラシーというのがあります。↓この論文、UW-Madisonからは読めなくて、Evolution2008のときに、U of Minnesotaでダウンロードした思い出があります。

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/15221379
Posted by シロハラクイナ at 2011年05月10日 03:48
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