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2010年07月27日

Evolution of the tan locus contributed to pigment loss in Drosophila santomea: a response to Matute et al.

Evolution of the tan locus contributed to pigment loss in Drosophila santomea: a response to Matute et al.
Rebeiz M, Ramos-Womack M, Jeong S, Andolfatto P, Werner T, True J, Stern DL, Carroll SB.
Cell. 2009 Dec 11;139(6):1189-96.

さて、だいぶ間が空いてしまいましたが、とりあえずはこのシリーズの最後となる論文です。

なお、これまでに、関連するエントリを4つ書いてきました。

Lachaise et al. 2000
腹部に着色の無い種、Drosophila santomeaの発見。
http://hodotermopsis.seesaa.net/article/135297424.html

Carbone et al. 2005
QTL解析により、着色の喪失の原因となった主要なQTLにあたりをつけた。
http://hodotermopsis.seesaa.net/article/135402987.html

Jeong et al. 2008
最大効果QTL近傍にあるtan遺伝子が、QTLの正体である事を示した。
http://hodotermopsis.seesaa.net/article/145571102.html

Matute et al. 2009
melanogasterの突然変異系統とsantomeaの交配から、上記の論文の結果に疑義。
http://hodotermopsis.seesaa.net/article/145659375.html


この論文では、Matute et al.による批判のどこがまちがっているか、完膚なきまでに反論しています。

C研からJeong et al. 2008が出る前から、実はDS研ではsantomea-yakuba問題をQTL解析の精度を高める事により解決しようとしており、C研のCandidate gene approachよりも時間はかかるものの、先入観によるバイアスの無い、実直なデータをとっていたのでした。彼らの手法は、santomeaとyakubaを掛け合わせ、腹部に着色を持つ子孫にさらにsantomeaを掛け合わせ、ずっとこれを繰り返す事により、重要なQTL近傍のみyakuba由来で、その他のゲノム領域はすべてsantomeaという個体を作り出すというものです。

こういう系統をintrogression lineと呼ぶそうですが、これにより、最大効果を持つQTLの場所を29遺伝子を含む領域にまで狭める事に成功し、この領域のほぼ中心に、tan遺伝子が残っています。そして、Matute et al.の調べた、melanogasterでの欠失領域は、ひとつを除いてすべてこの領域の外にあるということがわかりました。つまり、彼らのデータの大部分は、関係のない領域を調べて、表現型に効果がみられないという、いわばあたりまえのネガティブデータだったわけです。

さらに、Matuteらの表現型のデータは、ちょっと計算を操作して、さもtan遺伝子の役割が小さかったかのようにしています。表現型をきちんと比較しようにも、対照群となるべき(体色に関して)野生型のmelanogaster(Basc)とsantomeaの雑種で、これが着色がおこらずにまっ黄色なものですから、melanogaster(tan)とsantomeaの雑種が同じくまっ黄色で、違いが検出しにくいのです。なのに、tanの効果を算出する時の分母には、melanogasterとsantomeaの着色の違いを用いていて、要は割り算の分母を不当に大きなものにすることで、tanの貢献度を不当に小さく算出していたのです。

結論としては、tan遺伝子(のcis制御領域)は、おそらく最大のQTLの正体であり、その変異がsantomeaの腹部の着色の進化に主要な役割を果たしていた、というものです。そして、同じデータでも、その取り扱いにより、人はいかに間違った結論を導くかというケーススタディーとして今回の論争を総括しています。
posted by シロハラクイナ at 01:00| シカゴ ☀| Comment(0) | TrackBack(0) | 論文 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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