生物学・科学に関する雑感。

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2006年02月20日

Developmental plasticity and the origin of species differences.

Developmental plasticity and the origin of species differences.
West-Eberhard MJ.
Proc Natl Acad Sci U S A. 2005 May 3;102 Suppl 1:6543-9. Epub 2005 Apr 25.

West-Eberhardによる発生の可塑性と種分化に関するレビューです。2/8に紹介したGenetic accommodationの話を検索していたところ出てきました。PNASのErnst Mayr生誕100周年記念号に掲載されていたようです。

図がひとつもなく、ややこしいことが書いてありそうなので敬遠していたのですが、Genetic accommodationを理解するためには避けて通れないので、やむなく読んでみることにしました。

実際読んでみると面白く、"発生の可塑性が新しい形質の進化において主要な役割を果たしている"、とするWest-Eberhardの仮説が、具体例を挙げつつ、これでもか、と論じられています。

自然選択は遺伝子型にではなく表現型に対して作用するので、突然変異のみならず環境の変化による表現型の変化も新しい形質の由来となり得るということです。その後Genetic accommodation(量的形質を決めている遺伝子の集団内の頻度が変化し、新しい形質が遺伝的にも強化される)が起こり、形質の変化が固定する、と。

実際多くの形質は量的遺伝子によって支配されているので、ほとんどの場合、単一の突然変異も環境の変化も新しい形質を生じさせる上で決定的な効果はなく、表現型の分散をある方向に動かすだけある(ここでは突然変異も環境変化もまとめて”インデューサー"と呼んでいます。)。それをきっかけに自然選択によって量的遺伝子の遺伝子型頻度が変化することが新しい形質を生み、固定させるのだ、ということらしいです。これを"Phenotype precedes genotype"(表現型が遺伝子型に先行する)と表現しています。

ここでちょっと驚いたのは、新しい形質が進化する上で必ずしも突然変異は必要ではない、ということを堂々と主張していることです。進化の概念も日々進歩しているのだなと感じる今日この頃です。

(2/23、accommodationの綴りを直しました。cもmもふたつずつですね。)


posted by シロハラクイナ at 17:52| ☀| Comment(8) | TrackBack(0) | 論文 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
こんにちは。genetic assimilationに関しても「量的形質を決めている遺伝子の集団内の頻度が変化し、新しい形質が遺伝的にも強化される」と理解していましたが、両者の違いは何なのでしょうか? 上記の文献を見てわかったことがあったら教えてください。
Posted by g-hop at 2006年02月21日 09:14
This description applies best to genetic assimilation, a special case of genetic accommodation that begins with environmental induction and proceeds toward fixation of the novel trait.
という一文があり、Genetic accommodationのなかでも特殊な場合(環境の変化がきっかけで新しい形質が生じ、選択を通じて遺伝的に固定する場合)をGenetic assimilationと呼ぶ、という理解でよろしいかと思います。突然変異がきっかけであったり、最終的な表現型が遺伝的に固定していない場合はGenetic accommodationということになりますね。Suzuki&Nijhoutのケースは後者にあたるのではないでしょうか。
Posted by シロハラクイナ at 2006年02月21日 12:26
すっきりしました。ありがとうございました。
Posted by g-hop at 2006年02月21日 16:22
どういたしまして。自分も勉強になりました。
Posted by シロハラクイナ at 2006年02月21日 16:51
 先日はどうもでした。Genetic accommodationの概念は発生をやっていない私にはなかなかイメージするのが難しいです。環境の変化で新しい表現型が生じると、それまで眠っていた形質に対して新しく選択圧がかかって新奇形質が生まれるということですよね?Genetic assimilationはもともとは発現に刺激が必要だった形質が、accommodationのメカニズムで刺激が無くても発現するようになった(同化した)ものということでいいんですかね。West-eberhardの「電話帳」を読んでみてはいるのですが、いまいちしっくりきません。
 Falconerとかの本に載っているGenetic assimilationの古典的な例では、環境の変化によって現れた形質それ自体に選択がかかって、やがて環境変化がなくても固定するようになると読めます。で、West-Eberhardの説明では、新しく現れた形質の「調節」や「副産物」に選択圧がかかる、と書いているように見えます。Accommodationとassimilationを考えるとき、この微妙な差が気持ち悪いのですが。
 West-Eberhardは本文中で何度もgenetic accommodationの説明をしているが、それが微妙に違っているのでちょっと混乱します。読みこみが足りないと言われればそのとおりと言うしかないのですが。
 長々と失礼しました。
Posted by Katsura at 2006年02月21日 23:06
こちらこそ、先日はどうもでした。ちょっと出かけていたためお返事が遅れて失礼しました。

私はFalconerもWest-Eberhardの電話帳も読んでいないので正しいことは言えないのですが、West-EberhardはGenetic assimilationの概念をもとに、表現型の進化を説明できるほどに大拡張してGenetic accommodationという言葉を言い出したんですよね?West-Eberhardは最近の発生遺伝学を知っているので、一般化しつつも、より踏み込んだ説明をしようとしているのではないでしょうか?調節や副産物でも、形質の違いとして現れれば、選択の対象になりうると。

結果的に変化するのは、assimilationでもaccommodationでも、調節遺伝子を含む、膨大な遺伝子ネットワークの構成要素ということになりますよね(量的遺伝子座の実体)。

うーん、答えになっていませんか?電話帳は先日アマゾンに注文してあるので、読んでから出直して良いでしょうか?
Posted by シロハラクイナ at 2006年02月23日 11:39
いや。答えになっています。すっきりしました。「膨大な遺伝子ネットワークの構成要素」が変化するという総体的な概念だというのが、電話帳を読んだモヤモヤとした感覚としっくりきます。ありがとうございました。
Posted by Katsura at 2006年02月23日 21:33
どういたしまして。今後も精進いたします。
Posted by シロハラクイナ at 2006年02月23日 21:52
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