生物学・科学に関する雑感。

現在ウィスコンシン・マディソンに研究留学中


2008年07月30日

The Spandrels of San Marco and the Panglossian Paradigm

The Spandrels of San Marco and the Panglossian Paradigm: A Critique of the Adaptationist Programme.
S. J. Gould and R. C. Lewontin (1979)
Proceedings of the Royal Society of London. Series B, Biological Sciences, Vol. 205, No. 1161, pp. 581-598

グールドの論文なんてあまり読む機会もないと思っていましたが、フランスから来ているHさんがジャーナルクラブで取り上げたので、メモしておきます。一般向けに書かれているエッセイシリーズとは違って科学の論文らしい論文なのかと思って読むと、ギョッとさせられます。書き出しはサンマルコ大聖堂の構造の話で、とても生物学の論文とは思えない。これではいつものエッセイと同じではないか…。

サンマルコ大聖堂の壁と天井の間あたりにあるスパンドレルという三角形の構造には、美しい宗教画が描かれており、周辺の装飾と相まって見事な芸術的調和を見せている。しかし、実はこのスパンドレルは、アーチ状に設計された柱の隙間にできてしまった三角の部分で、仕方なく絵で埋めてあるに過ぎない。生物の構造にもこういう場合があるのではないか?つまり、その構造が進化したのは他の構造や適応のための副産物で、現在はたまたま別の目的にも使われている、という場合があるのではないか?と。

また、フランス文学「カンディード」に登場するパングロス博士のセリフ「鼻は眼鏡をかけるためにある、足はズボンをはくためにある」という部分を引き合いに出し、適応万能主義を皮肉っています。その後にやっと生物の話で、二枚貝の表面にある溝など、様々な例をあげていますが、基本的には、根拠の薄い適応的解釈を批判するものとなっています。

どうも、歴史的な意味でも重要な論文らしい。当時は適応万能主義が勢いを持っていて、人の行動も適応進化の結果である生得的な性質で説明できるとの考え(いわゆる社会生物学)が広まりつつあり、この論文はそのような時代背景で書かれたということです。社会生物学論争はそれはそれで激しかったようなので、この論文は番外編、あるいは場外乱闘といったところ?

ところで、不謹慎ですみませんが、例の落書き騒動がサンマルコ大聖堂だったらタイムリーだったのですが、そちらはフィレンツェの大聖堂だったみたいですね。「冷静と情熱のあいだ」に出てきた大聖堂は…と思ったらこちらもフィレンツェ。もし行ったことがあったら、イメージがわくのだろうけど。

Spandrel (biology)(wikipedia)
posted by シロハラクイナ at 07:49| シカゴ ☀| Comment(2) | TrackBack(0) | 論文 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
いつも書評を楽しく拝見しております。ウリカ・セーゲルストローレの「社会生物学論争史」は読まれましたか?グールドの論文はどちらかというと、論争史的には重要だったと言うべきかもしれません。私はセーゲルストローレの「適応主義*はjust-so-storyに陥りやすいが多くの発見をもたらした。グールドらの反適応主義は確かにその通り(=生物の形質には適応的なものもそうでないものもある)だろうが、何ももたらさなかった。」という指摘が当を得ているように思えます。
(*適応万能主義はグールドお得意のわら人形批判で、実際に用いられていたのは「作業仮説としての適応主義」と言う方が正確だと思います)
Posted by mapipi at 2008年08月02日 21:27
コメントありがとうございます。すいません、「社会生物学論争史」は読んでおりませんm(_ _)m ウィルソンも、アリンコの研究者としての側面しか知りません…。
実際には、ある現象なり形質なりに対して、考えられる限りの仮説(なんのための適応か、)を考えるのが現実で、それが他の証拠や実験によって補強できればするし、出来なければしない、それだけのことだと思うんですが。
適応的でなさそうな場合、拘束とか、副産物の可能性を考えるのだと思いますが、我々は、そう言う可能性も考えなきゃいかん、というグールドの説教だと捉えました。「社会生物学論争史」読んでみますね。
Posted by シロハラクイナ at 2008年08月03日 00:47
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