生物学・科学に関する雑感。

書籍の紹介が中心です


2013年05月26日

Genome engineering of Drosophila with the CRISPR RNA-guided Cas9 nuclease.

Genome engineering of Drosophila with the CRISPR RNA-guided Cas9 nuclease.
Scott J. Gratz, Alexander M. Cummings, Jennifer N. Nguyen, Danielle C. Hamm, Laura K. Donohue, Melissa M. Harrison, Jill Wildonger and Kate M. O'Connor-Giles
Genetics Early Online May 24, 2013, doi: 10.1534/genetics.113.152710

そろそろ世界のどこかから出るだろうと思っていた、CRISPRのハエへの応用、まさかまさか、うちの隣のラボからでました。インジェクションのやり方を教えたのはうちのテクニシャンだし…。いつのまにやっていたのかという感じ。こういう仕事はやると決めたらスピードが大事ですね。

CRISPRというのはバクテリアから見つかっている獲得免疫の機構らしく、ウィルスのゲノムの一部を自分のゲノムに取り込んで、次に侵入があったときに、それを鋳型にウィルスゲノムを切断することで防御するもののようです。このシステムを応用して、ゲノムの特定の場所を切断、場合によってはそれを相同な配列と組み替えさせることでゲノム改変ができる、というアイディアで、すでに哺乳類の培養細胞や酵母では成功例があったので、ハエで使われるのも時間の問題でした。

この方法のメリットは、とにかく簡単で速いということだと思います。ターゲットの制約は、GGを含む配列であるということくらいです(ただし、まだyellowとrosyでしかテストされていないので、すべての遺伝子やその近傍で同じように働く保証はない)。とにかくゲノム改変のためには何らかの方法で特異性を持たせなければなりません。TALENやZFNは、DNA配列を認識するタンパク質の配列をデザインする必要があるのに対し、CRISPRで使われるRNAの配列というのは最も直接的で単純なので、外注する必要もないし時間もかからないので、普及のスピードは速いと予想します。

5/29 キーワードを追記します。CRISPR, CRISPE/Cas9, ショウジョウバエ, Drosophila, Zinc finger nuclease
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2013年05月20日

意識の探求 神経科学からのアプローチ

意識の探求―神経科学からのアプローチ (上) [単行本] / クリストフ・コッホ (著); 土谷 尚嗣, 金井 良太 (翻訳); 岩波書店 (刊)

意識とは何か、というのは脳科学の最も難しくかつ重要な問題のひとつと言われているそうです。著者のコッホは、クリック(*注1)とともに、意識の神経科学的基盤の解明に取り組んできた研究者です。

彼らは、NCC (Neural Correlates of Consciousness) 、つまり意識を生み出すのに充分な神経活動の単位を探ることを目標に、特に視覚意識(何が見えているか)に注目してきたそうです。NCCがあると仮定するということは、脳のどこかに意識の中心になる領域なり回路があるということで、これはデネット(*注2)が批判するカルテジアン劇場のようなものです。コッホはNCCを仮定した上で、今はその実体を科学的なアプローチで探索できるエキサイティングな時代であり、そうすべきというスタンスです。例えば視覚意識に関して言えば、後頭部にある皮質のV1(一次視覚野)は視覚のNCCに含まれないのはほぼ確かで、つまり大脳皮質の全体ではなく一部(おそらく下側頭葉の中やその周りのニューロンを含む)が意識形成の中心になっているはず、と述べています。

意識の問題のように長く議論されてきた課題を解決するためには、とにかく検証可能な仮説を立てて、それを科学的に検証するというスタイルが、唯一の現実的な手法であると私も信じますし、そういう意味では自然科学は最も実践的な哲学なのだと思います。

*注1 Francis Crick、The Astonishing Hypothesis(邦訳:DNAに魂はあるか)の著者で、もちろんDNAの二重らせん構造の提唱でも有名。

*注2 Daniel C. Dennett、Consciousness Explained (邦訳: 解明される意識 )など、とても字数の多い本で有名な人気哲学者です。
posted by シロハラクイナ at 16:49| シカゴ ☁| Comment(0) | TrackBack(0) | 書籍(翻訳もの) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする