生物学・科学に関する雑感。

現在ウィスコンシン・マディソンに研究留学中


2011年10月17日

自由は進化する

自由は進化する [単行本] / ダニエル・C・デネット (著); 山形 浩生 (翻訳); NTT出版 (刊)

ずっと前に読み始めたものの、これを理解するためには「解明される意識」を読んでおかねばならないと思い、その後に再挑戦してやっと読了。本書は、はたして人間に自由意志はあるのか?という問題に、ユニークな解答を提示しています。

われわれ理系の人間の多くは、人間も動物の一種であり、大腸菌、線虫、ショウジョウバエなどとおおむね同じ動作原理で動いている、と考えていると思います。そして生物の体は完全に物理学的に説明可能な物質のふるまいのみによって動いていて、意識の働きも同様である、と考えるのが自然です(つまり物質に基づかない霊魂のようなものは無い)。これは古くからある機械論と非常に近い立場だと思います。そうすると、我々の脳の活動も他の物体の振る舞いと全く同じで、宇宙の初期状態が与えられれば後は必然的に展開するシナリオ通りに動いているだけということになります。

一方で、われわれは自分に自由意志があることを前提にしてものを考えているような気がします。それが、機械論とは矛盾するように思えるにも関わらず、です。

デネットは、それは矛盾ではなくて、機械論的な世界観と自由意志は両立できると主張しているようです。そのためには、人間の意識というのは進化を経て作られてきた行動シミュレーションツールであるという視点が不可欠で、「解明される意識」や「ダーウィンの危険な思想」で述べられている内容を下敷きにしつつ、本書でさらに自由意志に関する議論に焦点を絞って論じています。予想される反論や、この手の話題にはつきものの量子力学との関係なども、丁寧に論じています。この手の話題が好きな人には、ぜひお勧めしたい本です。

ところで、山形浩生のべらんめぇ口調の独特な訳文は、私にはくだけすぎているように感じられました。
posted by シロハラクイナ at 07:32| シカゴ ☁| Comment(0) | TrackBack(0) | 書籍(翻訳もの) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年10月15日

The treehopper's helmet is not homologous with wings (Hemiptera: Membracidae)

The treehopper's helmet is not homologous with wings (Hemiptera: Membracidae)
KAZUNORI YOSHIZAWA
Systematic Entomology
Article first published online: 14 OCT 2011
DOI: 10.1111/j.1365-3113.2011.00606.x

例のツノゼミ論文に対する反論が正式に出ました。元論文には多くの形態学的な解釈ミスがあり、彼らの主張する結論(ツノゼミのヘルメットは翅と相同)は、全く支持されない、という内容です。

私は元論文と今回の反論の両方に多少関わっており、微妙な立場ではありますが、自分の科学的な良心に従って、完全にこちらの反論を支持しています。そもそも昨年の夏、元論文の筆頭著者がマディソンを訪れた際に、このプロジェクトの概要を聞き、データの解釈に関する私の懸念は伝えました。

その時の違和感は主に2つありました。ひとつめは、ヘルメットには関節があり、それによって付属肢の定義を満たす、という彼らの見立てが、ヘルメットと翅の相同性を示す証拠のひとつとして挙げられていたことです。付属肢の定義は、既存の付属肢をひとつのカテゴリーにまとめて名付けるためにあり、その由来の同一性を担保するものではありません。付属肢に由来する器官が二次的に関節を失うこともあり得るでしょうし、付属肢の定義に合致する複数の器官が、独立に生じることもあり得るはずです。さらに、そもそもヘルメットの関節と彼らが主張する構造自体が、今回の反論論文により、単に前胸と中胸のあいだの部分である(つまりヘルメットと前胸の間に関節はない)ことが示されています。

もう一つは、ツノゼミの終齢若虫の前胸の側後方には、翅芽と明らかに連続相同に見える張り出しが見られ、一方で、ヘルメットは前胸の中央付近で既に後方に張り出していることです。つまり、翅とヘルメットとでは、形成されている場所が違うのです。彼らは、切片標本に基づいて、ヘルメットの前駆組織は翅と同じ位置で形成され始め、次第に中央に伸びて融合するかのような図を示していますが、これは切片を斜めに切ったからそういう形に見えていることを、今回の反論は示しています。

このように、そもそも形態の解釈に大きな疑問があるので、元論文の後半の、Drosophilaを使った実験は無意味です。実験の前提となる問題提起(翅と相同なヘルメットが前胸に形成されるにあたり、Hoxによる翅形成の抑制メカニズムは保存されているか)がそもそも意味をなさないからです。Natureをはじめとする有名ジャーナルは、EvoDevoの論文に対しても、結論を支持する実験、特に遺伝子の機能解析を要求することが多くなっていますが、それをうまく逆手に取って、あたかも結論を支持する実験を行ったかのように仕上げています。良く読むと、これらの実験の組み立てを含め、論理の運び方がぶっとんでいて、彼らのデータ群は、ひとつの結論を支持するものでないことは明らかだと思います。

今回の反論の著者、吉澤さんのブログもご覧下さい。
http://hexapoda.sblo.jp/
posted by シロハラクイナ at 01:33| シカゴ ☀| Comment(2) | TrackBack(0) | 論文 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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