生物学・科学に関する雑感。

現在ウィスコンシン・マディソンに研究留学中


2011年05月11日

トップジャーナルのありかたについて

トップジャーナルのありかたについて、あまり語る資格はなさそうですが、小物だけに言えることもあると思うので言っておきます。

生物学の研究者にとって、CNSあるいはビック3と言われる、Cell, Nature, Scienceですが、これらは他の多くの専門誌と色々な点で異なっていると思います。特に顕著な違いは、編集長、編集者らが、現役の科学者でなく、多くがPhDを取った後に出版界に転じた人たちということでしょうか。つまり論文の採否の最終決定が、科学者でない人によって行われるということです。

彼らは多くの一流の論文を読んできていますから、かなりの見識があるのは確かだとは思いますし、レフェリーはその分野にフィットした専門家がやりますので、論文の個別具体的な問題点についても見落とさないことが期待されますが、現実的には見落とすこともあるでしょう。そして、採否の際に、データや論理構成とともに、あるいはそれ以上に重視されるのが、分野の垣根を越えた革新性、インパクトなどです。これは商業誌である以上、おそらく仕方のないことで、彼らの目的関数は、科学の進歩、ではなくて、商業的成功(=部数)であるだろうからです。つまり本当であろうと無かろうと話題になったもの勝ちということですね。これはNatureで特に見られる傾向だと思います。


では、編集長、編集者を現役の科学者にやってもらうといいのでは?と思いますが、トップジャーナルともなると、投稿量は半端じゃないので両立は困難ですし、編集者や彼らと親しい人の研究室からその雑誌に論文が出ると、ひいきしているのではないかという目で見られるなど、別の問題が出てくると思います。

PLoS Biologyは、既存のトップジャーナルへの不満がたまっていた科学者による設立、運営で、トップジャーナルを目指しましたが、いまのところ、上記の3誌ほどの地位は得られていないです(そして、言いにくいけれど"お友達が有利" との批判も聞かれないことはないです。)。また、オープンアクセスであるという別の問題との関係が強いですが、経営的にはPLoS Biologyは失敗したと言われていて、PLoS ONEとセットにすることでやっていけているという状況です。しかし、個人的には、PLoSは既存のシステムに風穴を開けたという点で、大いに評価されるべきと思います。Nature Communicationsの創刊はPLoSに対抗する意図だと思いますし、既存の雑誌の地位がずっと安泰であるわけではないと思います。何にせよ、絶対的な権威があるというのは面白くなくて、常に栄枯盛衰やターンオーバーがあるというのが健全なのではないでしょうか?

私個人の好みで言えば、いまだに読んで一番面白いのはNatureだと思いますし、時々変な論文が載るのも楽しみです。ただ長く権威の座に留まり過ぎではあると思います。科学的な健全さで言えばCellが理想なのでしょうが、ちょっと退屈なところがありますね。
posted by シロハラクイナ at 14:55| シカゴ ☀| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年05月05日

Body plan innovation in treehoppers through the evolution of an extra wing-like appendage

しばらく休んでいましたが、再開します。

Body plan innovation in treehoppers through the evolution of an extra wing-like appendage
Benjamin Prud’homme, Caroline Minervino, Mélanie Hocine, Jessica D. Cande, Aïcha Aouane, Héloïse D. Dufour, Victoria A. Kassner, Nicolas Gompel
Nature 473, 83–86 (05 May 2011)

さて、ツノゼミのヘルメット(胸部についた飾り)の進化的起源を扱ったこの論文。うちの研究室からも2人、著者に入っていますし、このプロジェクトの進行をそばで見ることができました。昆虫好きの人はよくご存じのように、ツノゼミはその圧倒的な形態的多様性により、多くの昆虫写真家、採集家、ナチュラリストを魅了している一群です。熱帯産のものが有名ですが、ウィスコンシンには一種だけ、とても良く採れる普通種がいるので、それをうまく利用したプロジェクトです。

彼らが示しているのは、ツノゼミのヘルメットは関節を持った前胸の背側付属肢であるということと、発達中のヘルメットは、翅の発生に関連する遺伝子3つ(nub, Dll, hth)の抗体で染まる、ということです。これをもって、ヘルメットは翅と連続相同な器官であり、ツノゼミはnubなどの翅発生関連遺伝子が、前胸のHoxであるScrによる抑制を受けないように進化したためにヘルメットを発達させることができた、という壮大な仮説を述べています。

材料の特性上、できる実験と出来ない実験があるし、苦労もよくわかりますが、やはりデータの積み上げ方、論理構成は少々強引なように思います。しかしライティングが非常にうまいのと、Supplementを含めGompel氏の写真がとても良いので、エンターテインメント性の高い作品に仕上がっていると思います。おそらくどこかからか反論も出てくると思いますが、それを読むのも楽しみですし、再反論も楽しみです。
posted by シロハラクイナ at 05:43| シカゴ ☀| Comment(7) | TrackBack(0) | 論文 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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